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高エネルギー加速器セミナー II (Jan. 16, 2008). 3.3 J-PARC におけるサイエンスのねらい ー ミュオン科学のめざすものー. Plan 0) ミュオンスピン回転法 - µ SR 1) µ SR による磁性研究 2) µ SR による超伝導研究 3) その他の応用 4) J-PARC での展開. 物質構造科学研究所ミュオン科学研究施設 門野良典. 0) ミュオンスピン回転法 =μSR. μSR=muon Spin Rotation, Relaxation.
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高エネルギー加速器セミナーII (Jan. 16, 2008) 3.3 J-PARCにおけるサイエンスのねらい ーミュオン科学のめざすものー Plan 0) ミュオンスピン回転法-µSR 1) µSRによる磁性研究 2) µSRによる超伝導研究 3) その他の応用 4) J-PARCでの展開 物質構造科学研究所ミュオン科学研究施設 門野良典
0) ミュオンスピン回転法=μSR μSR=muon Spin Rotation, Relaxation... a) 生成標的からほぼ100%スピンのそろったミュオンを取り出し、二次ビームラインで輸送して試料中に注入する。 b) 注入されたミュオンは原子と原子の間に止まり、そこでの局所磁場を感じて歳差運動する。 c) ミュオンは崩壊する瞬間に向いていたスピンの方向に陽電子を放出するので、それを検出器で捉える。 →スピンの回転に伴い検出器の信号が時間的に脈動する。
磁場中のスピン(=磁気モーメント)の運動 (古典論的理解) 歳差運動 歳差運動 スピン こま トルク トルク 重力 磁場 磁場中のスピンはこまと同じように首振り運動(歳差運動) を行なう。この時歳差運動の周波数は磁場に比例
The Nobel Prize in Physics 1957 "for their penetrating investigation of the so-called parity laws which has led to important discoveries regarding the elementary particles" T.D. Lee & C.N.Yang:弱い相互作用におけるパリティ非保存の可能性の指摘(1956) μSR発展の歴史 「弱い相互作用」=原子核、π中間子、μ粒子等のベータ崩壊
π±→μ±+νµ、μ±→e±+νe+νµ崩壊での パリティ非保存の実験検証(1957) μSR発展の歴史 横軸=磁場B π+ -50G 0 +50G μ+ t=0 0.75µs 2.0µs t e+ この間に来たe+のみを数える↑ 磁場をかけてμ+スピンと検出器の相対角度を変えながら測定(数は積分) ~100° e+の数∝cosθ; θ=μBt [B〜15Gでθ〜100°]
μSR発展の歴史 1958: μSRによる最初の物性研究 …小型cyclotronでの実験(黎明期) 1974: TRIUMF、PSI(当時SIN)稼働 …大型cyclotron「中間子工場」の登場 197?:「表面ミュオン」の発見 1979: ゼロ磁場μSR法の確立 1980: 日本国内初のミュオンBL稼働(KEK、当時東大) …大型synchrotronによる世界初のパルス状ミュオン ビーム/日本におけるμSR研究の開始 1986: RAL(英国)ミュオンBL稼働 …高温超伝導体の発見/μSRへの認知度上昇 1994: 理研RALミュオンBL稼働 2001: J-PARC(東海)建設開始
μSRの原理 ミュオンを試料に注入し(t=t1)、そこから放出される 高エネルギー崩壊(陽)電子を検出する(t=t2)。 ただし崩壊時刻は予言不可能(β崩壊)なので一定の時間ゲートを開けて崩壊を待つ。 µカウンター 時間ゲート e+ μ+ t=t1 t=t2 t T F B ヒストグラム stop F-時計 start B-時計 stop
μSR実験装置 直流状ビームではミュオンを一つ一つ同定し、 その崩壊陽電子を観測→少数の検出器でOK ⇄時間ゲート中に2つめのミュオンが来た場合 には陽電子の親ミュオンが不明→事象を破棄 LAMPF@TRIUMF ミュオンビーム 後方検出器群 ミュオン 縦磁場コイル クライオスタット 試料 前方検出器群 µ+カウンター vetoカウンター 試料 前方検出器と後方検出器の非対称度(Asymmetry)∝ミュオンの偏極度
μSR実験装置 パスル状ビームではパルス毎に多数の崩壊陽電子を 同時に観測→検出器を分割 ミュオンの注入時刻(t=0)は加速器のタイミングで 決める ARGUS@RIKEN-RAL ミュオン 試料 試料 前方検出器群 後方検出器群 …直流ビームでは大強度化に対応困難→パルス化の流れ [大強度ビーム施設ではパルス状ビームが標準(RAL,J-PARC)] ただし…
パルス状ミュオンにおける時間分解能の制限 t=t1がパルス幅 の不定性を持つ: →μSR測定の時間分解能に上限を与える[例えば~50 ns (KEK)] …Nyquist frequency =1/2 =10 MHz ⇔〜 0.074 T (>80 ns @RAL, J-PARC) 足し合わせると…
e+ 時間分解能を決めるもう一つの要因 プラスチックシンチレータ (蛍光発光〜1ns/発光の立ち上がり<0.1ns) …陽電子検出器の時間分解能 ライトガイド (lucite) ~1m FWHM~3ns 光電子増倍管 -40 -20 0 20 40 Time difference (ns) Nyquist frequency =1/2=166 MHz 光速度<30cm/ns …ライトガイド中の光路差による光電面への到達時刻のばらつき
μSR実験装置 データ収集システム(DAQ) …オンラインデータロギング 毎秒103~104個の崩壊陽電子を測定 →高速な時間デジタル変換器(Time-to-Digital Converter, TDC) 例:KEK-MSLの検出器系 陽電子検出器~32チャンネル On-board PC Data Acquisition System (DAQ) On-Line Monitor 波高 弁別器 TDC … 加速器からのビームタイミング信号 SCSI-BUS(~10MB/s) Strage (off-line)
KEKMSLのシステム: 32x2x2=128 histograms…paw++(CERNLib)ベースの オンラインモニター
序 現代物性物理学のテーマ=電子相関 ⇩ • 凝集体中で電子が1原子の範囲を超えて広がる 原子間の相互作用 一様系 物理 化学 多彩な性質 電子相関なし 電子相関なし 金属 孤立「原子」 物理と化学の境界領域 構造 分子=内部自由度の大きい「原子」 超格子・ナノ構造 電子状態
µSRで見えるもの • 局所電子状態(q=0): 電子スピンが作る局所内部磁場(B)、およびその揺らぎ(c)を観測 観測量=スペクトル密度P() [とその揺らぎに よる変調] 相補的 放射光・中性子等の回折プローブで見えるもの 電荷・スピン分布:散乱体の全体積に体する平均 観測量=構造因子S(q,)
最隣接の磁気 モーメントか らの双極子磁 場にのみ敏感 核スピンしかない場合 緩和の速さから磁気モーメントの大きさを推定可能 ミュオンは再隣接原子からの磁場を直接感じる 1)μSRによる磁性研究 磁気秩序がない状態 磁気秩序(強磁性)状態 μ+ 内部磁場はサイトに依存、ミュオン偏極も時間とともに減少 内部磁場はサイト毎に一定、ミュオンスピンは同じ周期で回転 脈動する 信号: ・周波数 ・緩和率 ・振幅 ただし、磁気構造の違いには必ずしも敏感でない
=1.07Å 211 110 110 211 210 210 10° 20° 30° 10° 20° 30° θ θ 中性子回折強度は長距離秩序の度合いに比例 参考) 中性子回折の場合 磁気秩序がない状態 磁気秩序(強磁性)状態 すべての原子からの散乱強度の和を見る θ 中性子は原子核からの回折のみ 磁気散乱による回折強度の増大 回折強度から体積平均した磁気モーメントの大きさを推定可能 2dsinq= Bragg条件 磁気構造によって回折パターンが変化:構造解析に最適
乱れた磁気相の存在 ←ゼロ磁場でLa2CuO4にミュオンを注入したときに得られる信号 (ZF-µSRスペクトル) 磁気秩序に伴う脈動 パターンが見える ...ミュオンは比較的少量の試料で磁気秩序の有無を調べる事が可能 →新物質の磁性評価に威力を発揮 O Cu 銅酸化物の磁性 ホールドープ系 電子ドープ系 ところで... キャリアを入れない銅酸化物が 反強磁性体であることを最初に 示したのはミュオンによる実験 (1987年〜1988年) キャリア濃度
最近の例:高温超伝導体Ca2-xNaxCuO2Cl2 (Na-CCOC)の磁気相図の解明 ー京大化研との協同研究ー Na-CCCOCは平坦なCuO2面を持つ→従来不可能だった過小ドープ領域でトンネル分光、光電子分光が可能になったが磁性は未解明。 ↑ミュオン(µSR)は磁気相図(ドーピングに伴う磁性の変化の地図)を調べる最も便利な手法: → (右図):Ca2-xNaxCuO2Cl2の過小ドープ領域(0.06<x<0.1)で磁気的に乱れた状態にあることを初めて示した。[←走査トンネル分光法(STM, STS)により実空間での不均一な電子状態が伴う事も判明] …ナノスケールでの電子状態の不均一=局在しかかった電子が示す共通の特徴:µSRは磁気相互作用を通じて観測 ↑µSR by Ohishi et al. ↑STM/STS by Kohsaka et al.
Tc=1.8K 最近の例2μSRの特徴を活かした典型例): 磁性を持った超伝導状態 (Aoki et al., PRL,2003) 希土類元素を含む新しい充填スクッテルダイト型超伝導体PrOs4Sb12 日刊工業新聞2003/8/13 μSRで超伝導状態に付随した微小磁場を発見 ...磁気モーメントを持った新しい型のクーパー対を示す証拠
2)μSRによる超伝導研究 超伝導状態のより深い理解をめざして 第二種超伝導体の磁束格子状態: ↑超伝導体の表面に磁性の微粒子を撒いて電子顕微鏡で見た磁束格子 ξ 超伝導における2つの重要な長さスケール コヒーレンス長ξ …クーパー対の間隔 格子の歪(phonon) 磁場侵入長λ …磁束の周りを流れる超伝導電流(クーパー対)の密度を反映
磁束状態にミュオンを注入すると... 常伝導 ...ミュオンは磁場分布を ランダムサンプリング 超伝導(磁束格子) 磁束状態の 磁場分布 周波数分布(フーリエ変換) 磁束コアの情報が高周波側に集まる →磁束格子の形を他の方法(SANS等)で決めて元の磁場分布を再構成、 λ、ξを同時に決める事が可能
例:μSRとSANSの実験結果から再構成された YNi2B2C(Tc=15 K)における磁束格子状態の 磁場の空間分布 SANS→ …四角格子を組む原因である フェルミ面の異方性(非局所 効果)を考慮する必要がある
vs.vF λから分かる事:運動量空間での超伝導ギャップの構造 J(r) ∝vs 磁束周りの超伝導電流によるドップラーシフト ↓λの温度/磁場に対する依存性を測ると… ←↑例えば磁場に対する傾きの値が超伝導ギャップの異方性を反映する。 …クーパー対形成の機構を解明する上での重要な情報
∝1-H/Hc2 最近の例:-パイロクロア化合物KOs2O6の超伝導 比較的高いTc (~9 K)を持ったパイロクロア化合物(Yonezawa et al., 2004): 物理的背景…パイロクロア格子上で反強磁性相関を示す局在モーメントはフラストレーションにより秩序化しない(=スピン液体状態)→金属的なスピン液体状態の上では新たな機構で超伝導が発現する可能性がある。 (Koda et al., 2005) μSRで測定された磁場侵入長lの磁場依存性を見ると、磁場に対して比較的大きな傾きをもって増大していく。 →ギャップに構造がない単純なBCS超伝導機構では説明できない結果。
↓µSRで決められた、lの磁場に対する傾きの強さを表す無次元のパラメーターhの値。超伝導ギャップに節(ノード)がある場合は有限の値を取る。↓µSRで決められた、lの磁場に対する傾きの強さを表す無次元のパラメーターhの値。超伝導ギャップに節(ノード)がある場合は有限の値を取る。 l=l(0)[1+hh] [7] R. Kadono et al. JPSJ 71 (2002) 709. [8] J.E. Sonier et al. PRL 93 (2004) 017002. [9] A. Koda et al. JPSJ 74 (2005) 1678. [10] R. Kadono et al. PRB 74 (2006) 024513. [11] R. Kadono, S. Kuroiwa et al., to be published. [12] K. H. Sato, R. Kadono, et al., to be published. [1] K. Ohishi et al. PRB 65 (2002) 140505. [2] K. Ohishi et al. JPSJ 72 (2003) 29. [3] J.E. Sonier et al. PRL 79 (1997) 1742. [4] J.E. Sonier et al. RMP 72 (2000) 769. [5] R. Kadono et al. PRB 63 (2001) 224520. [6] K. Ohishi et al. Physica B 326 (2003) 364.
磁束コア半径 磁場 例:磁束コア半径が磁場の 増大とともに縮む ξ(磁束コア半径)から分かる事…物理の新たな展開 一つの磁束の周りを より微視的に見ると... 従来の描像... 磁束は正常状態の単純な筒 磁場 分布 電流 分布 ↑このような単純な描像で理解できない現象が近年数多く見つかっている。 位相 分布
3)μSR:その他の応用例 水素原子は半導体におけるkey player …バルクな電気活性を大きく左右する ←希薄な濃度の水素(孤立水素中心)を研究するのは極めて困難 半導体中の孤立ミュオニウム中心の電子状態は水素をシミュレート! 最近の例:GaN中の孤立ミュオニウムの電子状態の解明 ←小さな活性化エネルギーは浅いドナー順位を形成→GaNは水素添加によりn型伝導を示す? Shimomura, Kadono et al. PRL 92 (2004) 135505
C O 最近の成果) 水素吸蔵物質中のµ+の状態はプロトン(水素)をシミュレート! AlH4 NaAlH4中のµ+ [AlH4-µ+AlH4-]という水素結合による複合体が出来ている事をµSRで初めて明らかにした。 (Phys. Rev. Lett.に出版予定) Na ↑NaAlH4中のµ+の振る舞いがTiドーピングによって変わる様子を捉えた。
補)μSR J-PARCにおける負ミュオン利用 ・負ミュオンを用いたµ-SR …原子番号 Z-1 を持つ結晶格子点位置のプローブ 寿命 ∝Z-4:原子核のµ-捕獲による e.g. ≈0.77µs in Si [cf. µ+: 2.19709(5) µs] スピン偏極度:Pµ<16 %[cf. µ+: Pµ≈100 %] →小さな崩壊非対称度A0< 5% Trans. Metals C Si 従来より少なくとも 102 〜103倍高強度の µ-が必要 ↑電子への崩壊確率がZとともに急激に小さくなる⇔…試料に注入するミュオンをいちいち数えなければならない直流ビームによる実験は極めて非効率(ほとんど無駄な測定時間を費やす)→J-PARCで初めて実用になる?
新物質評価手段としてのμSRの特徴ーunique “niche” 原子レベルでの局所磁気プローブ: 中性子回折に比べて 1) 長距離秩序の有無に関わらず磁性を評価可能 ...小さな磁気モーメントS/大きな単位体積v0に適用可能 中性子回折強度∝V・S2/v02⇔ ミュオン回転周波数∝S 回転振幅∝磁性相の体積 2) 少量の粉末試料で磁性を評価可能 3) 磁気秩序変数に線形に応答 核磁気共鳴(NMR)に比べて 1) 核スピンの有無に関わらず全ての物質で適用可能 2) 純粋に磁気相互作用のみ(スピン=1/2)で解釈の 任性が少ない 3) 磁気秩序変数に線形に応答 中性子/NMR両者に比べて これらが見れない時間スケールの現象をμSRで見る事が可能
ミクロな超高感度磁気プローブとしてのミュオンミクロな超高感度磁気プローブとしてのミュオン J-PARCミュオンは原子一つ一つの磁性を捉える 通常のマクロ測定では観測 不能な反強磁性など多数 時間積分信号 見える 銅酸化物 超伝導体 見えない 時間微分信号 中性子 メスバウアー ミュオン(µSR) 核磁気共鳴(NMR) 交流帯磁率 ←各種プローブが捉える 磁気揺らぎの時間スケール
J-PARC-µ 世界のミュオン実験施設 KEKMSL=KEK ミュオン科学研究施設...国内唯一のミュオン源 →3桁アップの強度を持つJ-PARCミュオン施設へ
J-PARC MUSE Facility MUSE=“Muon Science Establishment” ミュオン科学実験施設(MUSE) 中性子科学実験施設 (JSNS) ← 2~6 beam lines may be available upon the completion of Phase II 物質生命科学実験棟 (MLF)
陽子ビーム 現在の建設状況 ミュオン生成標的 2008年度中のファーストビームをめざして建設中
J-PARCミュオンにおけるμSR KEK-MSL停止後、アジア地域唯一のミュオン源として引き続きμSRによる新物質評価の拠点を形成する。(第1期+α) 2) ビームの大強度化によりこれまで実施が困難であった条件下(微小試料、複合極限条件等)での物性研究を可能する。 (第1期+α) 3) 隣接する中性子回折との相補的利用により、さらに高度な物性評価が可能になる。 4) ビームチャンネル数の増加により多数の利用者を受け入れ可能になる。 (第2期)