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国際経済 3. リカードの比較優位論. 名古屋大学経済学部 柳瀬 明彦. リカードの貿易理論. 生産技術の違い → 貿易パターンを決める 各国が違う技術を持っているとき,国際貿易において,どの国がどの財を輸出し輸入するか? リカード( D. Ricardo ) 『 経済学および課税の原理 』1817 年 「比較生産費説( theory of comparative costs )」:相対的な生産費用の格差こそが貿易パターンの決定要因. リカードの貿易理論(つづき). 2 国(自国・外国) 2 財( X 財・ Y 財)モデル 生産要素は労働のみ
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国際経済3. リカードの比較優位論 名古屋大学経済学部 柳瀬 明彦
リカードの貿易理論 • 生産技術の違い → 貿易パターンを決める • 各国が違う技術を持っているとき,国際貿易において,どの国がどの財を輸出し輸入するか? • リカード(D. Ricardo)『経済学および課税の原理』1817年 • 「比較生産費説(theory of comparative costs)」:相対的な生産費用の格差こそが貿易パターンの決定要因
リカードの貿易理論(つづき) • 2国(自国・外国)2財(X財・Y財)モデル • 生産要素は労働のみ • 労働投入係数(財の生産1単位に必要な労働投入量): • 各国の労働賦存量(総労働量): • 自国:L • 外国:L* • 労働は各国内でのみ自由に移動可能&完全雇用
絶対優位と貿易の利益 • 労働投入係数が小さいほど,生産技術が優れている • 「絶対優位(absolute advantage)」の概念 • 例:aX < aX*ならば,自国はX財の生産に絶対優位 • 次の数値例を考える: • ⇒ イギリスは毛織物に,ポルトガルはワインに,それぞれ絶対優位 • 総労働時間:イギリスは8000時間,ポルトガルは10000時間とする
絶対優位と貿易の利益(つづき) • 自給自足の場合: • 各国で総労働時間を各財の生産に半分ずつ費やすとする
絶対優位と貿易の利益(つづき) • スミス(A. Smith)『国富論』1776年 • 「自国の労働は自国が多少とも優位にある産業に投じ,自国の生産物の一部でその商品を外国から買う方がいい」 • 各国は絶対優位にある財に特化(生産を集中)し,互いにそれらの財を交換 • ⇒ 自給自足よりも多くの財を入手可能
絶対優位論の問題点 • 次のような場合はどうなるか? • ⇒ イギリスは両方の財に絶対優位,ポルトガルは両方の財に絶対劣位 • ⇒ 絶対優位論に基づいて考えると, • イギリスは両方の財を生産? • ポルトガルは何も生産せずに両方の財を輸入?
比較優位 • 比較優位(comparative advantage):ある国が他の国に比べて,どの財を相対的に効率よく(安価に)生産できるか? • 機会費用(opportunity cost)の概念を用いて表現 • 機会費用:ある活動を行うとき,その活動を行わずに違う活動を行ったときに得られたはずの利益(の最大値) • (Y財で測った)X財生産の機会費用:X財の生産をすることで,Y財の生産から得られたはずの利益をどれだけ犠牲にしているか? • ⇒ 投入係数の比 aX/aYに等しい • X財1単位の生産は、Y財1単位の生産よりも何倍の労働投入を必要とするか? • =1単位のX財を生産することは、同じ量の労働を用いて生産可能であったY財の生産を何単位犠牲にしているか?
比較優位(つづき) • aX/aY<aX*/aY*ならば,自国はX財に比較優位 • 外国に比べて,X財の機会費用が低い(X財を相対的に安価に生産可能) • 上の不等式を書き直すと,aY*/aX* <aY/aX ⇒ 外国はY財に比較優位 • この数値例: • ⇒ イギリスは毛織物に比較優位,ポルトガルはワインに比較優位 • ある国が全ての財の生産において比較優位を持つことはなく,逆にどの国にも必ず比較優位を持つ財が存在
比較優位と貿易 • 両国で貿易を開始 ⇒ 各国は,比較優位を持つ財の生産に特化 • この数値例: • ⇒ イギリスは毛織物生産に特化,ポルトガルはワイン生産に特化 • この特化パターンは,世界全体での生産の効率性を改善(同じ労働量でもより多くの生産が可能) • このような「特化の利益(gains from specialization)」に加えて,比較優位財を輸出し比較劣位財を輸入することで,各国は「交換の利益(gains from exchange)」を得る
比較優位と特化パターン • 生産可能性フロンティア(Production Possibilities Frontier) : • 与えられた生産技術&生産要素賦存量の下で最大限実現可能なXとYの組み合わせ • 自国のPPF:aX・X+aY・Y=L を満たすXとYの組み合わせ • 労働の完全雇用条件:LX+LY=L • X財(Y財)の投入係数:aX=LX/X(aY=LY/Y) • PPFの傾き(限界変形率)はX財の機会費用に等しい • 仮定:自国はX財に比較優位&外国はY財に比較優位
Y財 Y財 O O X財 X財 自国 外国
比較優位と特化パターン(つづき) • 閉鎖経済(自給自足)の下での各国経済の均衡 • 生産サイド:企業の利潤最大化 • X財企業の利潤:πX = pX・X-w・LX = (pX-w・aX)・X≧0ならばX>0 • Y財企業の利潤:πY = pY・Y-w・LY = (pY-w・aY)・Y≧0ならばY>0 • 両方の財が生産されるためには,pX=w・aXかつ pY=w・aYが成立する必要 • pX>w・aXだとすると、X財部門では生産量↑ ⇒ すべての労働者がX財部門で雇用 ⇒ X財しか生産されない
比較優位と特化パターン(つづき) • 消費サイド:消費者の効用最大化 • 限界代替率(Marginal Rate of Substitution)=相対価格 • 各国におけるX財の閉鎖経済均衡相対価格 • 自国:pX/pY= aX/aY • 外国:pX*/pY*= aX*/aY* • 生産可能性フロンティア上で生産
Y財 Y財 O O X財 X財 自国 外国 A* A
比較優位と特化パターン(つづき) • X財の国際相対価格:pW=pXW/pYWとする • pW> aX/aYならば、自国はX財に完全特化 • pW>aX/aYを変形: • ⇒ X財生産の拡大&Y財生産の縮小 ⇒ 全ての労働がX財部門に集中 • pW< aX/aYならば、自国はY財に完全特化 • pW= aX/aYならば、自国は両財を生産(不完全特化) X財部門の 労働投入1単位当たりの利潤 Y財部門の 労働投入1単位当たりの利潤
比較優位と特化パターン(つづき) • aX/aY:自国におけるX財の閉鎖経済均衡相対価格に等しい • ⇒ 国際相対価格≧閉鎖経済均衡相対価格となる財の生産に特化 • 自国: • 外国:
比較優位と特化パターン(つづき) 自国はX財に比較優位&外国はY財に比較優位(aX/aY< aX*/aY*) 2国間の貿易で可能なのは, aX/aY≦pw≦aX*/aY*のケース
Y財 Y財 O O X財 X財 自国 外国
特化の利益 Y財 • 比較優位パターンに沿った生産を行う • 両国でともにY財を生産している状態から出発 ⇒ まず自国(X財に比較優位)でのみY↓&X↑⇒ 自国の労働をすべてX財に投入 ⇒ その後、外国(X財に比較劣位)でY↓&X↑ • ⇒ 世界全体で効率的な生産が達成される • 自給自足均衡の生産点:世界全体のPPFの内側 世界全体のPPF O X財
貿易パターンと貿易利益 • 2国間の自由貿易 ⇒ X財の国際相対価格pW:世界全体(自国+外国)の需要=供給となるように決定 • 消費者の選好がどちらかの財に偏っていない&両国の労働賦存量の違いがあまり大きくない ⇒ pWは aX/aY<pw<aX*/aY*を満たすように決まる • ⇒ 自国はX財に完全特化&外国はY財に完全特化 • 生産の均衡点の決定 • 消費の均衡点は? • 代表的消費者の予算制約下の効用最大化行動 • 予算制約条件: • 自国:pXWx+pYWy≦pXL/aX • 外国:pXWx*+pYWy*≦pYL*/aY*
貿易パターンと貿易利益(つづき) • aX/aY< aX*/aY*のとき, • 自国はX財に比較優位&外国はY財に比較優位 • ⇒ 自由貿易均衡において,自国はX財を輸出&外国はY財を輸出 • 自由貿易均衡におけるX財の相対価格pWが aX/aY<pw<aX*/aY* を満たすように決まる場合, • 自国はX財に完全特化&外国はY財に完全特化 • 両国とも貿易利益を得る
Y財 Y財 O O X財 X財 自国 外国 E* Y財輸出量 A* X財輸入量 A Y財輸入量 E X財輸出量
X財の 相対価格 X財に対する世界全体の供給曲線 E X財に対する 世界全体の需要曲線 O 世界全体のX財生産量
貿易パターンと貿易利益(つづき) • 消費者の選好がどちらかの財に偏っている or 両国の労働賦存量の違いが非常に大きい場合, • 自由貿易均衡相対価格が pw=aX/aY or pw=aX*/aY* となる可能性 ⇒ 不完全特化する国が出てくる • 不完全特化する国:貿易前後で経済厚生の水準は同じ
貿易と労働賃金 • 自国はX財に比較優位&外国はY財に比較優位の場合, • 自国:X財に特化 ⇒ • 外国:Y財に特化 ⇒ • X財の国際相対価格は aX/aY≦pW≦aX*/aY*の範囲に決まる • ⇒ 自国と外国の相対賃金 w/w* は次の範囲に決まる: • 自国(外国)が両方の財に絶対優位を持つ ⇒ w >w*(w <w*)が成立