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ガイガーモードで駆動する ピクセル化された新型半導体光検出器の基礎特性に関する研究. 山下研究室 音野瑛俊. コンテンツ. ガイガーモードで駆動するピクセル型半導体光検出器 Pixelated Photon Detector を用いた測定、考察を行った。 + Pixelated Photon Detector の一般的説明 + 常温での測定(割愛) 日本の研究者コミュニティで認知されていなかったアフターパルス現象の発見。 発見後、当研究室をはじめとして精力的に研究が進められている。 + 低温下での測定 + 動作メカニズムの再構築 + まとめ.
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ガイガーモードで駆動するピクセル化された新型半導体光検出器の基礎特性に関する研究ガイガーモードで駆動するピクセル化された新型半導体光検出器の基礎特性に関する研究 山下研究室 音野瑛俊
コンテンツ ガイガーモードで駆動するピクセル型半導体光検出器 Pixelated Photon Detector を用いた測定、考察を行った。 +Pixelated Photon Detectorの一般的説明 +常温での測定(割愛) 日本の研究者コミュニティで認知されていなかったアフターパルス現象の発見。 発見後、当研究室をはじめとして精力的に研究が進められている。 +低温下での測定 +動作メカニズムの再構築 +まとめ
Pixelated Photon Detector Pixelated Photon Detectorとは ガイガーモードで駆動するピクセル型半導体光検出器 特徴 単光子に感度、極薄型、低電圧動作、高磁場耐性、高検出効率… 応用分野 素粒子原子核実験、宇宙観測、生命物性研究、医療… 今後の課題 高増幅率化、大面積化、低ノイズ化、開発の効率化
低温下での測定 測定の動機 常温での研究でPPDの内部で起こる豊かな物理が理解されてきた。 極端な環境下での特性の変化が現在までの知見で理解できるだろうか。
動作メカニズムの再構築 従来信じられてきた動作メカニズム クエンチング抵抗に流れる誘導電流による電圧降下を利用 第一の問題点 : 77Kでの波形のピークでは予想される2倍の誘導電流が流れている。 第二の問題点 : 77Kでの二成分に分離した波形を説明できない。 本研究で検証した動作メカニズム 増倍電荷と誘導電荷の電荷量が異なることによる電場降下を利用 問題点の解消
Pixelated Photon Detector とは ガイガーモードで駆動するピクセル化された半導体光検出器 • ガイガーモードと呼ばれる暴走過程を起こすような 「かけてはいけない」高電場を形成し、 • クエンチング抵抗を用いて「適切に」暴走過程を抑制し、 • ピクセル化することで「光の入射したピクセルの数によって入射した光子総数を計数」する。 各国で開発が進められているPPDの製品名 MPPC (Multi-Pixel Photon Counter), SiPM, MRS-APD, SPM,MPGM APD, AMPD, SSPM, GM-APD, SPAD, ………
MPPCの表面の構造と凹凸 4mm 入射面 1mm 3mm アルミニウム 導線 1mm ポリシリコン抵抗 ポリシリコン抵抗 アルミニウム導線 1.4mm 入射窓外壁
内部構造と電場分布 C ポリシリコン抵抗 アルミ導線 電場の強さ[105 V/m] 0 1 2 3 SiO2 ++ 拡散層 P 衝突イオン化 - - P 吸収層 ガードリング N ++ Si コントロール層 P - 増倍層 P ++ 基盤 N 衝突イオン化 強電場で加速された電子がシリコンの 共有結合電子をイオン化し、電子正孔対を作る アバランシェ増幅 連鎖的に衝突イオン化が起き、 電子が鼠算式に増加 アバランシェ増幅 増倍層 基盤 吸収層
増倍のメカニズム : 電子 : 正孔 107 106 衝突イオン化係数 [1/m] 正孔が増倍を起こす電場を印加 (ブレイクダウン電圧V0以上) V0 < V 電子 時間 正孔 1mmの増倍層で1回以上 衝突イオン化を起こす 2 3 4 5 6 7 E [105 V/cm] 正孔が増倍に寄与することで 収束せず暴走状態になる。 =ガイガーモード S.L. Miller 1957
収束のメカニズム 増倍電荷の移動に誘導された電流I[A]が R[Ω]のクエンチング抵抗に流れ込む V - IR >V0 IR I[A] I0[A]に増加 1nsec V - I0R =V0 I0R 誘導電流がクエンチング抵抗で電圧を落とすことで増倍層の電圧が下がり暴走が収束する。
パルスの出力 1ピクセルに 入射 2ピクセルに 入射 3ピクセルに 入射 出力
クロストーク 増倍過程中に光子を放射され(105電子あたり1光子の割合)、 それが再び半導体に吸収されて増倍を起こす。 (A.L. Lacaita et al. 1993) V bias ダークノイズ クロストーク 光子が飛行する時間 ~ 10-3 [m] / 108 [m/sec] = 10 [psec] ドリフトにかかる時間 ~ 10-6 [m] / 105 [m/sec] = 10 [psec] ほぼ同時に出力されるため、クロストークが起こると、 単電子正孔対由来のパルスの二倍の波高となる。
アフターパルス 格子欠陥にトラップされた電子の放出によって、再び増倍が起こる。 V V V bias bias bias キャリアが再放出 トラップ キャリアが捕獲されている 40ns 格子欠陥は不純物や空孔などが原因とし、 欠陥の種類に応じた一定の時定数で トラップした電子を放出する。 アフターパルスはダークノイズより 遅れて観測される アフターパルス ダークノイズ
測定セットアップと測定項目 • 測定に用いたPPD • 1600pixel MPPC(1mm x 1mm) • 測定に用いた温度 • ドライアイス / エタノール (200K) • 液体窒素 (77K) • 測定項目 • 1. 波形 • 2. RC時定数 • 2.1 クェンチング抵抗の抵抗値 • 2.2 増倍層の静電容量 • 3. ブレイクダウン電圧 • 4. ダークノイズレート • 5. クロストーク率 • 6. アフターパルスの時定数 • 7. 回復時間 液体窒素 or エタノール w / ドライアイス 逆電圧[V] アンプ 直接MPPCを冷却
1. 波形 • 低温になるにつれて波形が • スパイクとテールの二成分に • 分離していく様子が観察できる。 • この変化について半導体物性 • から説明を与えることができない。 • 動作メカニズムの再構築 300K 200K 77K テール テール スパイク スパイク
1. 77Kの波形への考察 従来考えられていたメカニズム 印加電圧V、クエンチング抵抗R、誘導電流I、ブレイクダウン電圧V0とすると V-I0R=V0 となる時に増倍が収束するはずである。 しかし、77Kの波形を観察すると、 I0より大きい電流が流れていることがわかる。 I 0= (V-V 0 ) / R I > I 0 二成分に波形が分かれることにも説明がつかない。 動作メカニズムの再構築へ
2. RC時定数 電圧源 クェンチング抵抗 増倍層 MPPC アンプ 電圧源 クェンチング抵抗 増倍層 RC時定数 = クェンチング抵抗値 x 増倍層の静電容量
2.1 クエンチング抵抗の抵抗値 MPPCのクェンチング抵抗は ポリシリコンの粒が連なり、 接合部は非結晶構造である。 順方向電圧をかけて電流電圧曲線をとり、 クェンチング抵抗の値を評価した。 順方向電圧 [V] 電流 [mA] 接合部が抵抗となっており、 負の抵抗係数を示す。 (K. Kato et al. 1982) クェンチング抵抗
ADC Clock MPPC AMP Disc. 2.2 増倍層の静電容量 増倍層が部分空乏化している場合、静電容量は電圧依存、温度依存がある。 • Gain カーブの傾きから • 増倍層の静電容量が評価できる。 d ADC Dist.@ Self trigger ADC Dist.@ Clock trigger 増倍層は全空乏化している
2. 波形とRC時定数 テール部とスパイク部の分離が はっきりしている77Kの波形について 立下りから10nsec以降を指数関数で フィットして時定数を求めた。 35.7±2.9[nsec] 300K、200Kでは目算値に留めたが、よい一致をしている。 77Kの波形において、実測したテール部の時定数は予想されたRC時定数と 誤差の範囲内で一致した。 以上より、テール部の時定数の変化はポリシリコンの 抵抗値の温度変化で説明できることがわかる。
3. ブレイクダウン電圧 • ブレイクダウンとは暴走増倍が始まる電圧。 • 低温中の方が衝突イオン化が起こる • 確率が上がるため、(K. Rose et al. 1998) • ブレイクダウン電圧は低下することが • 期待される。 -20℃~50℃での温度係数は 50mV/K(T. Maeda 2007)であり、 およそこの係数が液体窒素温度 まで保たれている。 46.8mV/K
4. ダークノイズレート ダークノイズの原因は主に熱励起、トンネル効果がある。(D. Renker 2006)熱励起は温度依存があるが、電圧依存はない。 トンネル効果は温度依存はないが、電圧依存がある。 トンネル 効果 熱励起 200K~300Kでのダークノイズの頻度の変化は熱励起の温度依存性でよく説明できるが、77Kでは大きくずれている。 これは77Kでのダークノイズの起源はトンネル効果が支配的であることを示している。
5. クロストーク率 • 増倍過程中に放射される光子の強度やスペクトラムは • 20Kまで変化しないことが確認されている。(A.L. Lacaita et al. 1993) • 低温になるにつれて光子の吸収長は長くなる。(W.C. Dash et al. 1955) クロストークを引き起こす確率は低温中で低下する。 Scaler MPPC AMP Disc.1 Disc.2 Disc1 THR for normal pulse Disc2 THR for cross-talk
6. アフターパルス 格子欠陥にトラップされた増倍電子の放出によって再び増倍が起こる。 再放出の時定数を連続する2つのパルス間隔のTDC分布から求めた。 (backup) 77K 新たな準位 200K 1000 / T 300K 3.3 200K 5.0 77K 13.0 300K S. Cova et.al 1996 低温になるにつれて次々と新たな準位が顕在化することがわかる。
7. 回復時間 常温中の回復時間はRC時定数に一致する。(H. Oide et al. 2007) 77Kでは特徴的な波形のため、近接するアフターパルスを見るだけで 視覚的にリカバリーの様子をみることができ、 およそ77Kの時定数に一致していることがわかる。 77KでのRC時定数(35.8nsec)
低温下での測定のまとめ 77Kでの特徴的な波形以外の特性の変化について半導体物性に基づいた説明を 与えることができた。 77Kでの波形のピーク電流値の異常、2成分への分離を説明するためには、従来の 動作メカニズムの枠組みでは不可能であり、再構築が必要となった。
本研究で提案する動作メカニズム 電子、正孔が増倍を起こし、暴走状態が始まる ↓ 増倍層を抜けた増倍電荷が拡散する(backup) ↓ エネルギー保存則を考慮すると増倍電荷と誘導電荷が釣り合わない ↓ (backup) 増倍層の電場が低下する ↓ 増倍層の電場が十分低下すると、暴走が収束 ↓ 増倍電荷と誘導電荷の差分が電流として流れ、初期状態に戻る
電場の低下によるクエンチ 増倍電荷 Q E-⊿E>E0 E Q’ Q’ ⊿E h+ e- Q-Q’の 電荷が拡散 E-⊿E=E0 E>E0 Q-Q’ Q-Q’ e- ⊿E h+ ⊿E V
photon エネルギー保存則と波形 Q R 誘導電荷 Q’ Q Q’ R Q-Q’ -Q+Q’ 増倍電荷-誘導電荷 Q-Q’ Q-Q’ R
パルスに占める誘導電荷の比率の測定 実測には簡易に以下の式を用いた エネルギー保存則から得られた比率 テール部とスパイク部の切り分けに課題があるが、およそ予想値と実測値が一致した。
動作メカニズムの再構築のまとめ クエンチング抵抗に流れる誘導電流による電圧降下を利用 変更 増倍電荷と誘導電荷の不均衡による電場降下を利用 第一の問題点 : 77Kでの波形のピークでは予想される2倍の誘導電流が流れている。 本研究で提案するメカニズムは誘導電流の値によらずクエンチが起きる。 第二の問題点 : 77Kでの二成分に分離した波形を説明できない。 スパイク部は誘導電荷、テール部は増倍電荷と誘導電荷の差分に相当する。 本研究で提案するメカニズムは第一の問題点を回避し、 第二の問題点に対しては積極的に説明を与えることが可能である。
まとめと展望 本研究のまとめ +低温下での特性の変化について半導体物性に立ち戻った考察 +低温下での特徴的な波形の原因の探求 +新たな動作メカニズムの着想、およびその計算値と測定値のよい一致 今後の課題 +高増幅率化、大面積化、低ノイズ化、開発の効率化 今後の展望 +諸特性の波形解析を用いた精密測定による本研究の検証 +並行して行ってきたシミュレーターを用いた数値シミュレーションの実用化 +測定、シミュレーションの結果を用いて開発を行う正統的手法の確立 そして 迅速な開発の結果、現状の停滞を打破し一気に世界に普及を広める PPDの発明に次ぐ「第二の革命」を目標とする。
キャリア注入と拡散(1) ポワソン方程式 連続の方程式 オームの法則 増倍層 1018 cm-3 : t =100fsec 緩和時間t = re 拡散層 1015 cm-3 : t =100psec 誘電率 抵抗率 (増倍層のドリフト時間~10psec) 緩和時間 緩和時間 ⊿p ⊿n
エネルギー保存則 V photon -⊿Q’ ⊿Q’ -Q v v Q E R V
誘導電荷と増倍電荷の比率 j = 63.5 [v] G = 5.0e5 E = 3.0e7 [V/m] v = 1.0e5 [m/s]
キルヒホッフの法則とエネルギー保存則 電子の流れ 等価回路 Q’ 電池 VPPD Q R Q-Q’ -Q+Q’ Q-Q’ コンデンサ R 上記二つの回路の重ね合わせと考えると キルヒホッフ第二法則より IR=V-V0+VPPD 電流はI0= (V-V0) / R以上流れうる。
100kWの外付け抵抗を付けた時の波形 1ms 拡大 10ns
キャリア移動度と正孔衝突イオン化係数 V [cm/sec] 正孔の衝突イオン化係数 [1/cm] 105 104 103 102 107 106 電子 • 102 103 104 • E[V/cm] V [cm/sec] 107 106 正孔 1 234 1/ E [10-6 cm/V] • 102 103 104 • E[V/cm] ( 10 53.32.5 ) E [105 V/cm]
吸収長と衝突イオン化係数 吸収長 [1/cm] イオン化係数 [1/cm] 105 104 103 105 104 103 102 10 1 e- in Si h+ in Ge ○ 300K ● 77K e- in Ge h+ in Si 1.0 2.0 3.0 [eV] ( 1240 620 413 [nm] ) 2 3 4 5 6 7 E [105 V/cm]
検出効率の波長、電圧依存性 70 50 30 10 20 15 10 5 PDE [%] PDE [%] 波長:500nm 1600 pixel type • 3 4 5 6 7 8 9 • 波長 [102 nm] 1 2 3 4 ΔV[V] 175ns
ホットエレクトロンの放射する光 バンド間 間接遷移 導電帯 103 102 10 バンド内遷移 (制動放射) バンド間 直接遷移 バンド間 直接遷移 バンド間 間接遷移 バンド内遷移 (制動放射) 荷電子帯 1.5 2.0 2.5 3.0 [eV] (826 620 496 413 [nm])
アフターパルス(1) 格子欠陥にトラップされた増倍キャリアの放出によって、再び増倍が起こる。 再放出の時定数を連続する2つのパルス間隔のTDC分布から求めた。 パルス間隔のTDC分布 アフターパルスがない場合 LogP(t) T T T アフターパルスがある場合 LogP(t) T T T T T
アフターパルス(2) トラップの起源は結晶の面欠陥、線欠陥、点欠陥や不純物などがあるため準位は多数個ある。 今回の解析では単一の時定数を仮定することで 各温度での最も優勢な時定数を求めた。 同一トラップからの再放出の時定数は25Kごとに約3倍ずつ長くなることが知られている。 今回測定された77K、200Kの時定数は予想される値よりはるかに小さいため、 全く新しいトラップを観測していることになる。