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天体現象のエネルギー源としての様々な降着円盤天体現象のエネルギー源としての様々な降着円盤
概要 • 宇宙における高エネルギー現象の多くは、中性子星やブラックホールといったコンパクト天体の周囲で起こっている。即ち、重力エネルギーを外向きのエネルギーに変える機構として原始星から活動銀河核といった様々な規模のものが考えられている。ここでは中心がコンパクト天体と考えたモデルを取り上げる。降着円盤を考える場合、いくつかのモデルが存在する。降着円盤の各モデルの特徴と各モデル、観測データを比較することにより、高エネルギー天体現象における有効なモデルを調べる。実際に観測されたデータとの比較から一つの降着円盤に複数のモデルが混在していることを示す。
§1.降着円盤とは? • ブラックホールなどの天体の強い重力に引かれてそこに落ち込みつつあるガスが作る強く輝く回転円盤である。 • ●何故強く輝いているのか?エネルギー源は? ①.燃焼反応 → 効率が悪い × ②.核反応 → 不安定 × 約0.7% • このエネルギーをすべて核反応で説明すると、太陽程度の恒星なら 個必要でブラックホールの境界であるシュバルツシルト半径は となり放射源の大きさ(~ )を超えてしまう。 ③.重力エネルギーの解放効率は理論的に50% • 中心にガスが落ち込む過程での圧縮及び摩擦熱によって熱エネルギーに変換され、そして、放射エネルギーに変換される。 • 重力と遠心力のつり合う位置からガスが中心に落ち込めなくなると言う問題点があるが、差動回転における粘性の働きによって解決される。
2-1差動回転 2-2円盤中の熱 (1)円盤中の発熱量 (2)円盤が失う熱 §2.降着円盤に用いられる概念、及びその基本的性質 図 1.差動回転 図 2.円盤
2-1差動回転 • 摩擦は流れの速度差を解消する様に働く。しかし図1の様に内側の方が外側より速く回っている差動回転においては事情が異なる。摩擦により内側のリングは外側を加速しようとし、逆に外側のリングは内側を減速しようとする。これにより、内側から外側へ角運動量が輸送される。ところが角運動量を失った内側のリングは中心へと落ち込むことでさらに速度を増す。逆に角運動量を得た外側のリングは遠心力が増すことにより、さらに外側へと広がって減速する。つまり、速度差は拡大するのである。この様にして角運動量を外に輸送することによってガスは中心へと落ち込んでゆく。
(1)円盤中の発熱( ) 特に今回とりあげるモデルの場合発熱は、粘性による発熱量 のみで決まる。 (2)円盤が失う熱( ) 今回とりあげるモデルの場合 放射によって失う熱量 移流によって失う熱量 2-2円盤中の熱 ●円盤の熱の収支は粘性による発熱と放射熱、移流で以下のように表せる。
§3.円盤のモデルの種類 SSD-ADAFThin混合モデル?
3-1-1光学的に厚い標準円盤(SSD) ・このモデルの円盤は幾何学的に薄くなる。() ・黒体放射とみなせる。 3-1-2 光学的に薄い標準円盤(Shapiro Model) ・円盤は光学的に薄く幾何学的に厚くなる。() ・放射機構は制動放射ないし逆コンプトン散乱優勢である。 3-1標準円盤 3-1標準円盤 ・標準円盤では遠心力と重力がつりあっている。 ・また、円盤は軸対称、定常状態である。 ・円盤面の垂直方向には静水圧平衡が成り立つ。 ・ここでは質量降着率は一定とする。 ・円盤は高速回転しているので回転速度は降着速度よりかなり速い。 ・また、移流は無視できる。 ・熱平衡状態
(ⅰ)温度 温度は、以下の式で表せる。 (ⅱ)スペクトル スペクトルは、温度だけの関数である。 以上から場所ごとに局所的な黒体放射スペクトルを計算し、円盤全体にわたって足し合わせれば全体のスペクトルが得られる。そのスペクトルが図3であ る。 3-1-1光学的に厚い標準円盤(SSD) 連星系ブラックホールの場合の円盤スペ クトル 図 3論文The Astrophysical Journal, 501:L41–L44, 1998 July 1より
3-1-2 光学的に薄い標準円盤(Shapiro Model) • 可能な最大温度 またこのモデルは、 ・イオン温度≠電子温度 ・イオン温度は、 の様に表せる。 このモデルでは、SSDより高温になるが、熱的に不安定な為定常的なエネルギー放射は難しい。
SSDとShapiro modelの温度分布は、 となる。(下の三つ標準円盤、上二つShapiro model) 以下切ったのは、シュバルトシルト半径である為である。 ●Shapiro modelを考えた理由: SSDでは、高温円盤の説明が出来ない事から高温になるモデルを必要とした。そのモデルの一つが、Shapiro modelである。SSDの時の放射機構は黒体放射である。しかし、Shapiro modelの放射機構を制動放射若しくは、逆コンプトン放射であるとし、標準モデルでは、光学的に厚いのを光学的に薄くしたようなモデルである。 ただ、Shapiro model自体も熱的にはきわめて不安定である為、これに変わるモデルを考えねばならなくなった。それが、ADAFである。 3-1-3 SSDとShapiro modelの違い 図 4.SSDとShapiroの温度分布
3-2-1. 光学的に厚い このモデルだと、SSDで説明したい高温部分 の説明が出来ない。また、スペクトルとも合わ ない。その為、新たなモデルを考えねばなら ない。 3-2-2. 光学的に薄い 光学的に薄いADAFは、電波からγ線に至る まで幅広い波長域での放射を示す。 基本的放射は以下である。 ①制動放射 ②シンクロトロン放射 ③逆コンプトン散乱 3-2. 移流優勢円盤(ADAF) 3-2. 移流優勢円盤(ADAF) ・移流優勢円盤では遠心力より重力が勝る。 ・質量降着時間は標準円盤より格段に短くなる。 ・円盤は幾何学的に厚い。( ) ・また、熱平衡状態は、 である。 ・移流とは、熱がガス流に乗って中心に運ばれる事である。 図 5. と の方向
(ⅰ)温度 温度は以下の式で表せる。 光学的に薄い高温プラズマで以下のよ うに表せる。 ・イオン温度 ・電子温度 (ⅱ)スペクトル この典型的なスペクトルが以下の図であ る。(計算によるスペクトル、詳Manmoto et al.1997) 3-2-2. 光学的に薄い 図 6 Manmoto et al.1997より
SSDとShapiro modelとADAFの温度分布は、 以下切ったのは、シュバルトシルト半径である為で ある。 ADAF Optically thinの とShapiro modelの は重なる。 また、Shapiro modelの温度とADAF Optically thinの温度を比べると Shapiro modelの方が高温になる。た だ、Shapiro modelは、上で述べたよ うに熱的に不安定である為、採用出 来ない。 ここから、Shapiro modelの代わりに ADAF Optically thinを使う事が出来 ると考えられる。 3-2-3. SSDとShapiro modelとADAFの違い 図 7.SSDとShapiroとADAFThinの温度分布
4-1. 黒体輻射ではなく、制動放射もしくは逆コンプトン放射にして、光学的に薄く、幾何学的に厚くして何が変わったのか? まず、黒体放射は、熱的放射である事。また、制動放射や逆コンプトン散乱 やシンクロトロン放射は、非熱的放射である事。 また、黒体放射は、光学的に厚い必要があるというのは、「一般に系全体に おける熱放射に比べて外部へ逃げ出す放射が少ない場合は、その系を黒体とみな す事が出来る。」そこから、光学的に厚いつまりそのぐらい密度が有るから内部の放 射が外に逃げ出せない。それ故、黒体とみなせるには光学的に厚い必要がある。 また、標準円盤において光学的に厚いとは、光が通り難いぐらい密度が高い事から 幾何学的には薄くなる。(注:ADAFでは幾何学的に厚くなる。) 次に非熱的放射の場合、光学的に厚いと外に放射出来ない為、光学的に薄くなけれ ばならない。また、非熱的放射は、円盤自体のエネルギー若しくは温度が、高い必 要がある為、非熱的放射優勢の場合は、熱的放射優勢の場合の円盤より高エネル ギー若しくは高温である必要がある。その為、黒体放射優勢では、説明できない高 温は、非熱的放射優勢の場合で考える。
4-2 実際のブラックホールの候補星と比較してみる。 ブラックホール候補星のスペクトルは、二つの状態を示す。 ①ソフトステート(ハイステート) ②ハードステート(ローステート) ・ソフトステート 軟X線の黒体輻射成分が卓越する。 このX線のスペクトルはほぼ の黒体放射で よく表される。 このことから、標準円盤からの放射が優勢であると考えら れている。 これは、磁場の弱い中性子星の場合と同様である。 ・ハードステート 硬X線-ガンマ線領域に至る,べき成分が卓越する このスペクトルは、数百keVまでのびる。 ハードステートの状態は、光学的に薄いADAFで説明され る。 図 8論文Makishima, K.; Maejima, Y. et 1986ApJ...308..635Mより
ブラックホール候補星はソフトステート、 つまり、SSDからのスペクトルとハードス テート、つまり、 ADAF(Optically Thin) のからのスペクトルの二つの状態を示し ている。 このためブラックホール候補星の一部は、 これらSSDとADAF(Optically Thin)の 二つのモデルが混ざったような状態では ないかと考えられる。 ◆そのブラックホール候補星の例を 幾つかあげる。 4-2 実際のブラックホールの候補星と比較してみる。 表 1.ブラックホール候補星
§5.結論 ①円盤の種類 高温円盤の説明不可 ハードステートの説明不可 SSD Shapiro model 熱的不安定の為不可 ADAFthick 高温円盤の説明不可 ADAFthin ソフトステートの説明不可
§5.結論 ②混合モデルの存在 低温円盤の説明可 ソフトステートの説明可 高温円盤の説明可 ハードステートの説明可 SSD ADAFthin SSD・ADAFThin混合モデル
5-1.熱平衡曲線 以上のモデルを 、 関係のグラフに描いた物が以下の曲線であ る。 :SSD :ADAF Optically thin :Shapiro model :ADAF Optically thick 図 9論文Thermal equilibria of accretion disks1995ApJ...438L..37Aより
5-2.円盤種別表 表 2.円盤種別表
§6.課題 • ①.二つのモデルの混在についてSSDと光学的に薄いADAFとの遷移はどのような場所で、どのように条件で起こっているのか、降着円盤の条件に乱流と磁場について入れていないので、それらがどのように影響を及ぼすかが今後の課題である。 • ②.この他のモデルの提唱も今後の課題である。今回、最後に近年の論文から一つのモデルを紹介してみようと思う。
6-1.今後の課題(新モデル紹介) ●NDAF(neutrino-dominated accretion flow): 最後に今後の課題として、このモデルを取り上げたのは、 今までのモデルを見てみると、高温円盤を考える為には、 光学的に薄いモデルでしかありえない様なイメージを 持ったからである。本当に光学的に厚い高温円盤は考え られて無いのかと言う疑問からこのモデルを取り上げた。 これ以降の参考文献: ・Kazunori Kohri and Shin Mineshige Yukawa Institute for Theoretical Physics, Kyoto University, Kyoto, 606-8502, Japan30 May 2002 ・Abramowicz, M. A.; Czerny, B.; Lasota, J. P.; Szuszkiewicz, E. Bibliographic Code: 1988ApJ...332..646A
今までのモデルに基づいたモデル。 光学的に厚いモデル。 温度も高温になる。 円盤の厚み 密度 光度 ニュートリノ冷却が移流冷却より優勢である。 ・Heating rates :粘性による熱率 ・Cooling rates :放射による冷却率 :移流による冷却率 :ニュートリノの損失による冷却率 6-1-1.NDAF(neutrino-dominated accretion flow)
●温度 温度は、以下のように表せる。 粘性パラメータ 密度 シュバルツシルト半径 ブラックホール質量 太陽質量 ●温度分布 6-1-2.温度-円盤半径の関係 ここから温度分布は、 図 10.NDAFの温度分布 以下切ったのは、シュバルトシルト半径である為で ある。
●温度分布 NDAFは、光学的に薄いADAFより低い 温度を示すが、円盤半径が大きくなって も温度があまり下がらない為、円盤半径 が大きい所では、逆に光学的に薄い ADAFより高温を示す。 確かにNDAFは、高温を示すが、最高温 度では光学的に薄いADAFより低温で ある。 ただ、SSDより高温である事から、 NDAFは、光学的に厚い円盤としては、 高温の値を取る。 6-1-3.SSDとADAF(optically thin)とNDAFの温度分布比較 図 11.SSDThickとADAFThinとNDAFの温度分布 以下切ったのは、シュバルトシルト半径である為で ある。
6-1-4.NDAFの熱平衡曲線 図 12.熱平衡曲線
6-1-5.NDAFのスペクトル • 今回、NDAFからどの様なスペクトルが出るかは分からなかった。ただ、NDAFがOptically Thickだからと言って、SSD同様黒体放射だと、温度的にここまで上がらないだろうから、これではないと思われる。また、NDAFの名前から、やはり、ニュートリノが関係してくるのだろうと考えられる。と言うのは、ニュートリノが、損失、つまり、ニュートリノが、外に放射されていると考えられるからである。