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国際医療福祉大学 20091104. 自己決定が困難な人と胃瘻を めぐる倫理. 会田薫子 東京大学 人文社会系研究科 グローバル COE 死生学研究室. 自己紹介. 新聞記者時代 医療分野での取材 薬害、医療過誤、終末期医療、 etc 政治分野での取材・・・都政、国政 ・研究方法を勉強に大学院へ ・ 終末期医療問題に 「理」と「情」の二面からアプローチ ⇒ 日本にふさわしく、日本人が納得できる 対処法を 現場から 探す. 今日の内容. 胃瘻って何? 胃瘻栄養法の適応 認知症末期における胃瘻の是非
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国際医療福祉大学 20091104 自己決定が困難な人と胃瘻をめぐる倫理 会田薫子 東京大学 人文社会系研究科 グローバルCOE死生学研究室
自己紹介 • 新聞記者時代 医療分野での取材 薬害、医療過誤、終末期医療、etc 政治分野での取材・・・都政、国政 ・研究方法を勉強に大学院へ ・終末期医療問題に 「理」と「情」の二面からアプローチ ⇒ 日本にふさわしく、日本人が納得できる 対処法を現場から探す
今日の内容 • 胃瘻って何? • 胃瘻栄養法の適応 • 認知症末期における胃瘻の是非 • 日本での施行要因の分析 • 代替法の可能性 • 意思決定のプロセスを重視
胃瘻:腹部の表面から胃に開けた瘻孔 PEGという術式で作る PEG:経皮内視鏡的胃瘻造設術 percutaneousendoscopic gastrostomy
PEG Boston Scientific社HPより • 1979年に小児患者用に米国で開発 • 腹部の切開部位 : 5 ~ 6mm • 処置の所要時間 : 10分程度
PEGの普及 欧米では1980年代から汎用 経鼻経管栄養法・TPNよりも利点多い 患者の苦痛が少ない、安全、安価 日本では1990年代から次第に使用拡大 国内でのPEG造設キット販売数 1993年6,500本/年 2001年 45,000本/年 2003年 84,300本/年 2008年 140,000本/年
PEGの合併症 • 軽度の合併症:造設時の出血、創部感染、 潰瘍、瘻口開大、 バンパー埋没症候群 • 重篤な合併症:造設時の大量出血、 大腸誤穿刺、誤嚥、 腹膜炎、心停止、呼吸停止、
PEGの対象患者 (会田の分類) ①治療目的が明確な群・・・適応がある QOL改善/一時的栄養法・・・不要になれば抜去 ・頭頚部、上部消化管のがん患者 / 外傷患者 ・神経変性疾患患者 ・クローン病患者 ・嚥下障害を有する脳血管疾患患者など ②治療目的が明確とはいえない群・・・適応は? ⅰ)認知症末期患者(アルツハイマー型、脳血管疾患型) ⅱ)急性期の症状によって意識障害重篤になり、 そのまま長期間経過し、回復の見込みがほとんどない と診断されている症例 日本では多くが②の症例 で、ほとんど高齢患者
PEGの対象患者 (会田の分類) ①治療目的が明確な群 QOL改善/一時的栄養法・・・不要になれば抜去 ・頭頚部、上部消化管のがん患者 / 外傷患者 ・神経変性疾患患者 ・クローン病患者 ・嚥下障害を有する脳血管疾患患者など ②治療目的が明確とはいえない群 ⅰ)認知症末期患者(アルツハイマー型、脳血管疾患型) ⅱ)急性期の症状によって意識障害重篤になり、 そのまま長期間経過し、回復の見込みがほとんどない と診断されている症例 日本では多くが②の症例 で、ほとんど高齢患者 自己決定が 困難な人
PEGの対象患者 ②治療目的が明確とはいえない群 ⅰ)認知症末期 ・・・欧米の研究では「適応外」 「健康への効果も延命効果も認められないので、施 行すべきでない。この患者群には、できるところまで spoon-feedし、それができなくなったときは、患者は 最終段階に入ったことを医療者は理解すべき」 Finucane,T.E., et al. (1999) JAMA Gillick, M.R. (2000) Hastings Cent Rep Post, S.G. (2001) N Engl J Med Rimon, E., et. al. (2005) Age and Ageing ・
PEGの対象患者 ②治療目的が明確とはいえない群 ⅱ)急性期の症状によって意識障害重篤になり、 そのまま長期間経過し、回復の見込みが ほとんどないと診断されている症例 国内研究で、 「延命効果があることは示されている」 (Kosaka, et al. 2000)
②の場合の人工栄養法の要望調査 外来高齢患者(n=562)の希望 ・PEG2.7% ・経鼻経管 6.0% ・点滴 38.8% ・何もしない 39.7% (松下ら 1999) 健康な高齢者(n=90) 経管栄養法(経鼻経管、PEG)を行ってほしくない 86.7% (小坂ら 2003)
この患者群への諸外国での対応 フランス、オランダ、スウェーデン 「PEGなどの人工的な処置は、通常、行わない」 (池上ら 2002) アメリカ、イギリス 「PEGは行わず、看取りへ」 (JAMA, NEJM, Hastings Cent Rep, Age & Ageing) しかし、日本では、PEGを行う なぜ?
研究目的 • ②のⅰ)について PEGの施行要因を臨床医の視点から 明らかにし、現状の問題点を探り、 同時に、現場から、日本における現実的な 改善策を模索する (第一段階調査) • 代替法の実行可能性を現場で探る (第二段階調査)
臨床医対象のインタビュー調査 (会田) • インタビュー時期:2004年2月~10月 • 対象:この分野の臨床医30名 • インタビュー内容 「ANH(artificial nutrition & hydration; 人工的な栄養・水分補給法)の施行と差し控えに関る臨床実践」 「患者家族への説明に関すること」 「施行・差し控えの決定に関する要因、問題点」 「医師としての悩み」 「自分が患者ならどのような選択するか」 など *同意を得て録音、逐語録作成
【結果】 研究対象者の背景 (n=30) (人) 年齢中央値47歳、(range:26-70歳)
PEG施行要因の関係 PEG施行 PEG選択の理由 医療システム PEGの利便性 「ANHを施行しない選択肢」提示の困難さ 医師と患者家族の 心理的安寧 患者家族の感情・ 意向への応答 法制度関連問題 慢性疾患の特徴
「ANHを施行しない選択肢」提示の困難さ 医師と患者家族の 心理的安寧 患者家族の感情・ 意向への応答 法制度関連問題 ・餓死忌避、ANHは必須 ・見殺し感回避 ・死なせる決断の重さ ・何もしないことの困難さ ・「別居家族問題」 脳血管疾患の特徴
「ANHを施行しない選択肢」提示の困難さ 医師と患者家族の 心理的安寧 患者家族の感情・ 意向への応答 法制度関連問題 ・家族にとっての存在の価値 家族の支え、年金収入 ・ANHの目的主体は家族 脳血管疾患の特徴
「ANHを施行しない選択肢」提示の困難さ 医師と患者家族の 心理的安寧 患者家族の感情・ 意向への応答 法制度関連問題 ・触法懸念 現行刑法の枠組みのなかで 罪に問われる恐れあり ・事前指示制度の欠如 (LW・意思決定代理人) 意見対立あれば医師は保守的に 慢性疾患の特徴
「ANHを施行しない選択肢」提示の困難さ 医師と患者家族の 心理的安寧 患者家族の感情・ 意向への応答 法制度関連問題 慢性疾患の特徴 ・終末期の定義の不明確性
PEG施行 PEG選択の理由 PEGの利便性 医療システム ・急性期・慢性期区分による転院圧力 ・診療報酬制度改定の影響 ・上昇するPEGの保険点数 患者家族の感情・ 意向への応答
PEG施行 PEG選択の理由 PEGの利便性 医療システム ・ vsTPN 事故少ない、自然な栄養法 ・ vs 経鼻経管 患者・医療者への負担少ない 患者家族の感情・ 意向への応答
自分が患者ならPEGは? 30名中21名 否定的回答 16名 「望まない」 「拒否する」 4名 「自分は望まないが家族が 望めば受ける」 1名 「主治医に触法行為を させられないから受ける」 30名中9名 5名 「家族に任せる」 3名 「わからない」 1名 「餓死は苦しいと思うから受ける」
自分が患者ならPEGは? 30名中21名 否定的回答 16名 「望まない」 「拒否する」 もちろん、やらないです。ウチのスタッフの中では、やりたくないという人がほとんどですよ、医師でもナースでも。胃瘻そのものがイヤ!….. 何でそういうことをね、他人にはそういうのをやるのかって話ですよね..。
「ANHを施行しない選択肢」も提示する医師 • 栄養・水分補給は必須とはいえない
「ANHを施行しない選択肢」も提示する医師 • 栄養・水分補給は必須とはいえない • PEGの利便性がもたらす不利益の認識 安易な施行決定を誘発
「ANHを施行しない選択肢」も提示する医師 • 栄養・水分補給は必須とはいえない • PEGの利便性がもたらす不利益の認識 • 患者家族と繰り返し話し合い
「ANHを施行しない選択肢」も提示する医師 • 栄養・水分補給は必須とはいえない • PEGの利便性がもたらす不利益の認識 • 患者家族と繰り返し話し合い 患者家族と信頼関係樹立 法的懸念は現実的ではない
「ANHを施行しない選択肢」も提示する医師 • 栄養・水分補給は必須とはいえない • PEGの利便性がもたらす不利益の認識 • 患者家族と繰り返し話し合い 患者家族と信頼関係樹立 法的懸念は現実的ではない • 少量の輸液投与 医療者と患者家族の心理的負担を軽減
「ANHを施行しない選択肢」も提示する医師 何もしないでね、日に日にどんどん衰えていくというのをみていくというのは、ご家族も結構つらいんですよ。でね、我々の側もね、結構つらいんですよ。だからその妥協の産物として1日300ccだけ。そうすると、少しずつは衰えていくんですけどね、だけど何にもしていないという感じがなくて、いいんですねぇ。 • 栄養・水分補給は必須とはいえない • PEGの利便性がもたらす不利益の認識 • 患者家族と繰り返し話し合い 患者家族と信頼関係樹立 法的懸念は現実的ではない • 少量の輸液 医療者と患者家族の心理的負担を軽減
「ANHを施行しない選択肢」も提示する医師 • 栄養・水分補給は必須とはいえない • PEGの利便性がもたらす不利益の認識 • 患者家族と繰り返し話し合い 患者家族と信頼関係樹立 法的懸念は現実的ではない • 少量の輸液投与 医療者と患者家族の心理的負担を軽減 • ANHを施行した場合の予後も説明
PEG施行要因の影響を緩和・相殺 • 栄養・水分補給は必須とはいえない 餓死忌避 • PEGの利便性がもたらす不利益の認識 PEGの利便性 • 患者家族との信頼関係により法的懸念は非現実に 触法懸念 • 少量の輸液が医療者と家族の心理的負担を軽減 何もしないことの困難さ • ANHを施行した場合の予後も説明 患者家族の意向により良く応答
代替案の可能性 少数派医師の臨床に学ぶ 「末梢点滴・看取り」コース 現実的で妥当な選択肢と なり得るか? 第二段階調査で検討
量的調査による確認(会田) • 対象 全国の療養病床を有する病院(n=720)の 常勤勤務医各1名 • 方法 郵送無記名自記式質問紙調査 • 調査時期2007年3~7月
調査項目 • 経鼻経管栄養法と比較した胃瘻栄養法の利点の認識 • 認知症末期患者の家族へのANHの第一選択について • 認知症末期で摂食困難な患者の仮想症例に対する ANHに関する医学的・倫理的・社会的問題について 前段階の探索的な質的調査(Aita, et al. 2007) の知見から質問項目を作成
【結果】 • 回収数: 285 (回収率:40%) • 分析対象: 277 (有効回答率:38%) • 回答者男女比: 89%:11% • 回答者年齢: 53.8±10.2 (50代・・32%) • 施設の病床数: 200床未満・・・75%
【結果】 経鼻経管栄養法との比較において胃瘻栄養法の利点として認識されている点 複数回答 89% 73% 58% 57% 47%
【結果】 認知症末期のシナリオ ・Aさん(80歳女性) ・アルツハイマー型認知症末期 意思疎通不可、寝たきり全介助 ・糖尿病合併 ・最近、摂食量の顕著な減少を認めていた ・言語聴覚士による嚥下リハビリ、ソフト食など食べ やすい工夫と食事介助を受けてきた ・すでに何回も誤嚥性肺炎を起こす ・先週、また誤嚥性肺炎を発症。肺炎は何とか軽快、 しかし、経口摂取はもう困難。今は、末梢点滴 ・ANHに関するAさん自身の事前指示なし ・夫は5年前に他界、他の家族の意向も不明
【結果】 AさんへのANHの第一選択 2% (n=277) 33% 31% 33%
【結果】 末梢点滴の意味 (n=91) 複数回答 何もせずに看取るのは 看取るほうの心が痛む...
【結果】 回答者自身がAさんだったら・・・ (n=277) 25% 37% 2% 31%
【結果】 回答者自身がAさんだったら・・・ (n=277) 25% 37% 2% この回答者の57%は患者(Aさん)には経管栄養法を選択 31%
【結果】 回答者自身がAさんだったら・・・ (n=277) 25% 37% 2% この回答者の47%は 患者(Aさん)には 経管栄養法を選択 31%
【考察】 胃瘻の優位性 vs 経鼻経管 ・患者の負担少 ・看護師の負担少 ・誤嚥等少ない ・医療事故少ない 前段階の質的調査(Aita, et al. 2007)の 知見を支持 PEG汎用へ しかし、対象を問わない施行に批判も (村井1997、橋本 2000、 大友2004)