270 likes | 560 Views
ゲーム理論(第11回). 2010 年 6 月 25 日. 今日の講義. ゲームの木の考え方を用いて,「契約理論」を考える。 ここ考える「契約」:行動と報酬,あるいは成果と報酬に関する取り決め。 プリンシパル=エージェント(依頼人=代理人)理論とも呼ばれる。. プリンシパルとエージェント. プリンシパル:契約を提示する側。成果と報酬との関係をエージェントに示す側。契約の内容を決定する。 エージェント:(1)そもそも,その契約を結ぶかどうか,(2)その契約のもとで,どのような行動をとるか,を決める。
E N D
ゲーム理論(第11回) 2010年6月25日
今日の講義 • ゲームの木の考え方を用いて,「契約理論」を考える。 • ここ考える「契約」:行動と報酬,あるいは成果と報酬に関する取り決め。 • プリンシパル=エージェント(依頼人=代理人)理論とも呼ばれる。
プリンシパルとエージェント • プリンシパル:契約を提示する側。成果と報酬との関係をエージェントに示す側。契約の内容を決定する。 • エージェント:(1)そもそも,その契約を結ぶかどうか,(2)その契約のもとで,どのような行動をとるか,を決める。 • プリンシパルとエージェントの間で,利害が一致するわけではない点が問題を複雑にする。
問題を複雑にする原因(発展) • 成果と努力がちゃんと結びついていれば,プリンシパルは「成果に応じた報酬」を取り決めた契約を提示すればよい。 • 成果と努力が必ずしも結びつかない場合,「サボっても高い報酬が得られる」という可能性や,「努力しても報われない」という可能性が入ってくるので,両者にとって望ましい報酬体系を作ることが難しくなる。
「両者にとって望ましい」? • 取引の成立:お互いにとって利益になる=両者にとって望ましいからこそ成立する(ミクロ基礎の話題)。 • 適切な報酬体系が構築できないと,そもそも取引が成立せず,利益を得るチャンスを両者共に失うことになる。 • 報酬体系の性質について研究するのが契約理論ということができる。
歩合給と固定給について • 以下では,洋服屋における経営者とアルバイトの間の契約(ゲーム)を例として考える。 • プレイヤー:経営者とアルバイト • 戦略: (1)経営者:契約の提示 (2)アルバイト:「(売り上げ増のための)努力をする」「努力しない」 • 利得:以下のとおり
ストーリー • 経営者の提示する契約: 「固定給」(毎月20万円払う) 「歩合給」(洋服1枚売れる毎に一定額) • 売上額:アルバイトの行動に依存 (a) 「努力をする」を選ぶと,50枚売れる=50万円の売り上げ (b)「努力をしない」を選ぶと,20枚売れる=20万円の売り上げ • 努力のコスト:「努力をする」を選ぶと,アルバイトに10万円の費用がかかる。「努力をしない」を選ぶと,費用はかからない。
ゲームの流れ (1)最初に,経営者が契約を提示する。 (2)その契約のもとで,アルバイトが最適な行動を選ぶ。 (3)売り上げ額,各プレイヤーの利得が確定する。
契約1:固定給契約のもとでのアルバイト行動契約1:固定給契約のもとでのアルバイト行動 • 場合分け (1)努力した場合:アルバイトの利得は20-10=10(万円) (2)努力しない場合:アルバイトの利得は20=20(万円) • 明らかにアルバイトは,固定給契約のもとでは努力しないを選ぶ。 • このとき,経営者の利得は 20-20=0。
契約2:歩合給契約(折半)のもとでのアルバイト行動契約2:歩合給契約(折半)のもとでのアルバイト行動 • 場合分け (1)努力した場合:アルの利得は 50×0.5-10=15(万円) (2)努力しない場合:アルの利得は 20×0.5=10(万円) • アルバイトは,この歩合給契約のもとでは努力するを選ぶ。 • このとき,経営者の利得は 50×0.5=25 (万円) 。
契約3:歩合給契約(8割経営者,アルが2割)のもとでのアルバイトの行動契約3:歩合給契約(8割経営者,アルが2割)のもとでのアルバイトの行動 • 場合分け (1)努力した場合:アルの利得は 50×0.2-10=0(万円) (2)努力しない場合:アルの利得は 20×0.2=4(万円) • アルは,この契約のもとでは努力しないを選ぶ。 • このとき,経営者の利得は 20×0.8=16 (万円)
経営者の選択 • 固定給:経営者の利得は0 • 歩合給(折半):経営者の利得は25 • 歩合給(8:2):経営者の利得は16 → 経営者は,この3つの中では,歩合給(折半)が最適な選択となる。
ゲームの木 (30,10) 努力する バイト (0,20) 固定給 努力しない (25,15) 努力する バイト 折半 経営者 (10,10) 努力しない 8:2 努力する (40,0) バイト 努力しない (16,8)
経営者の選択のポイント • 経営者は,契約を考える際に,アルバイトの反応を考慮に入れて設定する必要がある。 • 経営者にとっては,「8:2」で「努力する」が理想であるが,アルバイトはそのような選択をしない。
効率性の観点 • アルバイトが「努力する」を選んだときの余剰:50-10=40 → これを経営者とアルバイトで分け合う。 • アルバイトが「努力しない」を選んだときの余剰:20-0=20 → これを経営者とアルバイトで分け合う。 • 「努力する」を選ぶ方が,余剰は大きくなっている=効率的な状態。それが成立しないのは,契約がうまく設計できていないから。
参加制約と誘因両立性 • 契約の理論を考えるときは,2つの制約のもとでプリンシパルが自らの利益を最大化することを考える問題としてとらえる。 (1)参加制約:そもそも,エージェントが契約を結ぶ(取引に参加する) (2)誘因整合性:エージェントがプリンシパルに都合のよい行動をとる。
経営者の問題:再検討 • 経営者の問題は,以下のように考えることができる。 (1)経営者の利得(利益)の最大化問題を考える。 (2)その際,アルバイトの誘因整合性条件,参加制約条件を制約とする。 • 最初に,「売り上げの一定割合をアルバイトに渡す」という問題で考える。
経営者の問題(1) • まず,アルバイトが「努力する」を選ぶもとで経営者の利益を最大化する歩合給を考える。 • 目的関数は経営者の収入,第1の制約は「努力する」をとらせるに対応。第2の制約は歩合の制約だが,参加制約にも対応。 max Subject to
経営者の問題(2) • これを解くと,ただちに が得られる。つまり,歩合を「2:1」にすることで,経営者はアルバイトに努力させる制約のもとで,利益を最大化できる。 • このときの経営者の利益は,約33万円である。これは,アルバイトに努力しなくて得られる経営者の利益の最大値(20万円)よりも大きいので,経営者は の歩合給を選ぶ。
経営者の問題:固定的歩合制 • 次に,「売り上げの割合にこだわらずに,50着と20着で報酬を変える」というシステムで考える。
経営者の問題Part 2(1) • 50着売れたときの報酬を (万円),20着売れたときの報酬を (万円)とする。 • 目的関数は経営者の収入,第1の制約は「努力する」をとらせるに対応。第2の制約は参加制約。 max Subject to
経営者の問題Part 2(2) • これを解くと, , が得られる。つまり,「50着売れれば,費用にちょうど見合う報酬を与えるが,20着では何も払わない」というシステムである。 • このときの経営者の利益は40万円である。これは,アルバイトに努力しなくて得られる経営者の利益の最大値(20万円)よりも大きいので,経営者は上の歩合給を選ぶ。
さらに拡張:努力が観察できない場合 • すでに学んだ期待利得の考え方を利用して,努力と売り上げの関係を以下のように変更する。 (1)アルバイトが「努力しない」を選ぶと,100%の確率で,20着しか売れない。 (2)アルバイトが「努力する」を選ぶと,50%の確率で20着売れて,50%の確率で50着売れる • 報酬は売り上げ枚数にリンクした形でしか結べない。
努力が観察できない場合 • 50着売れたときの報酬を (万円),20着売れたときの報酬を (万円)とする。 • このとき, が得られる。 max Subject to
利得の比較 • アルバイトの期待利得は10で変化しない。したがって,期待利益はゼロのままである。 • 経営者の期待利得は,先ほどの40から35に下がるが,これは「50%の確率で売り上げが伸びない」ことが原因である。 • アルバイトが危険回避的であると,もう少し面白い話ができる(中級ミクロ)。