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日本における裁判員制度の現状と課題

日本における裁判員制度の現状と課題. 東京大学 井 上 正 仁. はじめに. ○日本  ・ 2004 年 5 月,大規模な司法制度改革の一環として, 裁判員法   制定  ・ 5 年の準備期間 を経て, 2009 年 5 月試行  ・ 2009 年 8 月,初の裁判員裁判(東京地裁)    それ以降 2011 年 1 月末までの 18 ヵ月間に全国で約 1,900 件     の裁判  ・裁判員・補充裁判員を務めた人は 約 14 , 000 人 ⇒ ○さまざまな統計,裁判員経験者に対するアンケート調査      や座談会等,裁判官その他の関係者の聴取,国民の

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  1. 日本における裁判員制度の現状と課題 東京大学 井 上 正 仁

  2. はじめに ○日本  ・2004年5月,大規模な司法制度改革の一環として,裁判員法   制定  ・5年の準備期間を経て,2009年5月試行  ・2009年8月,初の裁判員裁判(東京地裁)    それ以降2011年1月末までの18ヵ月間に全国で約1,900件     の裁判  ・裁判員・補充裁判員を務めた人は約14,000人 ⇒ ○さまざまな統計,裁判員経験者に対するアンケート調査      や座談会等,裁判官その他の関係者の聴取,国民の      意識調査等の積み重ね    ○運用や制度の見直しに備えた検討

  3. Ⅰ 裁判員制度の概要 (1)裁判員制度とは? ○一般の国民の中から選ばれた6名の裁判員が     刑事事件の裁判(第一審)に参加 3名の裁判官とともに裁判体を構成   公判の審理に出席し    ・有罪か無罪か    ・有罪の場合,どのような刑罰を科すか(量刑)      を決める制度 ※ 公訴事実について争いがなく,      事件の内容その他の事情を考慮して適当と認められる場合       ⇒ 裁判官1名,裁判員4名で構成する裁判体で審判可

  4. (2)裁判員はどのようにして選ばれるか?   (2)裁判員はどのようにして選ばれるか?    ○それぞれの地方裁判所の管轄区域に居住する 衆議院議員の選挙権を有する者の中から, くじで無作為に選ばれる。      ☆裁判員裁判は,全国50の地方裁判所,10の地方裁判所支部で         行われる。

  5. ○裁判員選任までのプロセス

  6. ○裁判員となることができない者  ①欠格(国家公務員となる資格のない者,義務教育を終えて     いない者,禁錮以上の刑に処せられた者,心身の故障の     ため裁判員としての職務に著しい支障のある者)  ②就職禁止     ・法律専門家    一般国民の良識の反映という制度趣旨 ・国会議員,国の官庁の幹部  三権分立    ・自衛官  ③事件関連の不適格(被告人・被害者本人やその親族等,      捜査関係者,弁護人etc.)  ④不公平な裁判をするおそれのある者

  7. ○裁判員を辞退できる者  ・70歳以上の人   ・県市町村議会の議員(会期中)   ・学生,生徒   ・5年以内に裁判員や検察審査会委員を務めたか    1年以内に裁判員候補者として裁判所に出頭した人   ・裁判員を務めることが困難な特別の事情のある人 (重い病気・障害,親族や同居人の介護・養育,事業上の著しい       損害発生のおそれ,親族の結婚式等,身体上・精神上の重大な       不利益発生,妊婦・出産後8週間以内,地裁管轄外の遠隔地 居住etc.)

  8. (3)裁判員の役割,権限,義務は? ○役割・権限   ・公判の審理(証拠調べや弁論等)への出席 証人に質問することも可 ・評議で意見を述べ,他の裁判員や裁判官ととともに      ・被告人の有罪・無罪の判定      ・有罪の場合,被告人に科す刑の決定(量刑)      =裁判官と対等の権限 ☆法令解釈・訴訟手続に関する判断は裁判官の権限 ・・・裁判員の意見を聴くことは可   ・判決宣告への立会い

  9. ○裁判員の義務等   ・公判・評議への出席   ・守秘義務(評議の内容・経過・意見分布等,職務上知った秘密。    公開の法廷で見聞きしたことは対象外) 自由・率直な意見交換の確保         被告人等関係者のプライヴァシーの保護 ・裁判員の保護     ・氏名等の非公開     ・事件に関する接触等の禁止 etc.

  10. (4) どのような事件が対象になるか? ○裁判員裁判の対象事件   ・死刑または無期の懲役・禁錮に当たる罪   ・短期1年以上の懲役・禁錮に当たる罪であって     故意の犯罪行為により被害者を死亡させたもの 殺人,強盗致死傷,現住建造物等放火      身代金目的誘拐,傷害致死,危険運転致死      覚せい剤の密輸等を業とする罪 etc. ⇒当初の見込み:1年に全国で2,000~2,500件         (地方裁判所管轄事件の2~3%)

  11. (5)被告人は裁判員裁判を拒否できるか?  被告人が罪を認めている場合は? ○被告人の拒否・選択不可   ・英米の陪審制度や韓国の国民参与制度とは相違 ○被告人自認事件も対象   ・英米の陪審制度と相違   ・量刑にも国民の健全な良識・感覚を反映するとの趣旨

  12. Ⅱ 裁判員制度の趣旨 1.裁判員制度導入の基本的考え方  (1)裁判員制度導入・実施に至る経緯    ・1999年7月 内閣の下に司法制度改革審議会設置 2001年6月報告書⇒裁判員制度の導入の提言・基本枠組の提示    ・2002年1月~2004年11月       司法制度改革推進本部裁判員制度・刑事検討会 ⇒裁判員制度・関連する刑事手続整備の具体的設計    ・2004年5月 裁判員法・刑事訴訟法一部改正法成立    ・2005年11月 公判前整理手続等実施    ・2009年5月21日  裁判員法施行

  13. (2) 司法制度改革審議会報告書の基本的考え方 ・国民に縁遠く,利用しにくい法律や裁判,法律家 「裁判沙汰」,「杓子定規」,「三百代言」,「金も時間もかかる」     ⇒ しかし,泣き寝入りも   ・社会の複雑化・多様化,国際化,規制緩和      ⇒ 争いの増加,明確なルールと公正な手続による解決     利用者である国民に身近で,親しみやすく,頼りになる司法 ①制度的基盤の整備(民事司法制度・刑事司法制度の改革など)      ②人的基盤の整備(法科大学院制度の創設など)      ③国民的基盤の整備(国民の司法参加=裁判員制度の導入など)

  14. ○裁判員制度導入の趣旨・意義 (1)法律専門家だけで行っていた裁判      緻密で確実,しかし,       ①国民の感覚と乖離する面        ②国民には理解困難,時間もかかる         ⇒①一般の国民の良識・感覚を反映  ⇒より信頼されるものに          ②国民に開かれ,分かりやすく,迅速な裁判に   (2)司法=3権の1つ     主権者である国民の意思に基づくもの       しかし,司法だけ参加なかった ⇒他の諸国の状況   (3)社会の安全・安心=自分たちの事柄      自ら支え,責任を分担。権利でもある   ⇒その自覚,実行   

  15. (3) 関連する刑事手続等の整備   ①公判の充実・迅速化      ・公判前整理手続の新設⇒争点・証拠の整理,そのための証拠開示       手続の整備⇒有効な審理計画の策定      ⇒裁判員裁判対象事件では必須の手続     ・公判の連日的開廷,審理計画に沿った争点中心の集中的審理       公判開始後の新たな証拠調べ請求制限   ②被疑者に対する公的弁護制度の新設     ・必要的弁護事件(死刑,無期,長期3年を超える懲役・禁錮に当たる       罪)で勾留される被疑者が,貧困その他の事由で自ら弁護人を選       任できない場合       ⇒被疑者の請求により,裁判官が国選弁護人を選任      ⇒早い段階からの防御の準備⇒公判の充実・迅速化にもつながる      裁判員の負担を過重にせず,充実した審理の実現

  16. 2.裁判員制度の要点とその趣旨 (1) 何故,陪審制度ではないのか?   ○陪審制度採用論     ・「官僚司法」批判と司法の「民主化」の主張        ⇒民主主義(多数決原理)と司法の役割     ・誤判防止策としての陪審論  ⇒前提としての現状認識, 根拠不十分   ○参審制度採用論     ・事件ごとにアド・ホックに選任される陪審員では適切な判断や裁判官       と対等な意見表明が難しいため,任期制で経験積んだ方が良い         ⇒国民の新鮮な感覚,良識の反映という趣旨と背馳

  17. ○従来の裁判官のみによる刑事裁判についての評価○従来の裁判官のみによる刑事裁判についての評価  ・日本では,従来から国民の間で,裁判所・職業裁判官に対する信頼が比較的     高く,刑事裁判も総体として良質という評価   ただ,一般国民の感覚とはズレたところも(特に量刑など)     ⇒国民が参加し,その健全な良識・感覚を裁判に反映させるこ       とによって,より良いものになる,という発想    ⇒有罪・無罪の認定も量刑も裁判官と裁判員の協働 ※韓国で英米陪審型が採用されたのは,従来の職業裁判官による刑事裁      判に対する国民の不信感が強かった(世論調査)からという指摘

  18. (2) 裁判員に裁判官と対等な評決権を与えた  のは何故か,憲法上問題はないか? ○司法制度改革審議会での審議  ・最高裁事務総局は,評決権を持った形での裁判体への国民の参加に対    しては憲法上の疑義もあり得るため,参加する国民は評決権は有さず,    意見を述べるだけという形なら問題ない旨の意見表明(2000年9月)  ⇒・それでは参加する国民は「お飾り」に過ぎなくなる    ・国民参加の趣旨からは,裁判内容形成への主体的・実質的な参加を      という意見が多数

  19. ・韓国では,陪審員の評決には拘束力なし   ○大韓民国憲法は「法官による裁判を受ける権利」を保障   ・日本でも,旧陪審法(1923年。1928~43年実施)は,裁判所   が陪審の評決結果を不当と考えるときは,新たな陪審に    やり直させること(陪審の更新)ができるとしていた。   ○旧憲法(1890年)は「裁判官ノ裁判」を受ける権利を保障   ⇒学説でも,陪審の評決に拘束力を認めるのは違憲とい     うのが多数説 ○憲法上の問題

  20. ・日本国憲法    「裁判所において裁判を受ける権利」(32条)   「公平な裁判所の・・・裁判を受ける権利」(37条1項)を保障     ○従来の学説では,拘束力付与は違憲とする考え方も多数      ・憲法の第7章「司法」では裁判官についてのみ規定      ・被告人がその権利を放棄すること必要とする説も     ○日本国憲法と同時期に制定された裁判所法(1947年)は,「刑事につ      いて,別に法律で陪審の制度を設けることを妨げない」(3条)と規定       ⇒連合国の占領下に置かれていた当時において,英米流の陪審制          度の導入が必須とされるとの予測もあり,憲法の「裁判所におい          て裁判を受ける」との新規定と相俟って,裁判体への国民の参          加の可能性を許容する考え方が採られていたとの見方     ○若い世代の学説,合憲とする考え方が増加     ○この種の憲法論議,東アジア(台湾,韓国,日本)に特有        欧米では例なし

  21. ・司法制度改革審議会での整理   ○憲法の裁判官についての規定は,職として常時,裁判に      携わる裁判官の独立性や身分を保障するためのもの   ○裁判官を裁判所の基本的構成要素とするが, これに国民が加わることを排除していない。   ⇒評決のルール:       ○裁判員のみの意見で決定すること不可      +裁判員参加の意義の確保        ⇒ 裁判官のみの意見で決定すること不可      ⇒裁判員法は,被告人に不利な決定の要件として規定   ○憲法76条3項は個々の裁判官の職権行使における独立性を    保障するもの。裁判官のみの合議体において多数決で,少数意    見を斥けて裁判内容が決定される場合でも,少数意見の裁判官    の独立性を侵すものとは考えられていない。     ⇒裁判員が加わる場合も同様    ⇒ 裁判員制度違憲論     東京高裁合憲判決(後述)

  22. (3) 対象事件:なぜ刑事の重大事件なのか? ○様々な意見    ・陪審論者 ⇒ できるだけ広い範囲    ・慎重論者 ⇒ 中程度の事件    ・刑事ではなく,民事の近隣紛争や行政事件からという意見(少数説) ○結論    ・歴史的経緯 ・・・ 旧陪審法    ・諸外国の例             ⇒ 刑事の重大事件    ・国民一般が関心の強い事件    ⇒ 死刑・無期事件      法定合議事件で故意の犯罪行為により被害者死亡

  23. (4)何故,被告人は,裁判員裁判を拒否し裁判   官による裁判を選択することが許されないのか?(4)何故,被告人は,裁判員裁判を拒否し裁判   官による裁判を選択することが許されないのか? ○アメリカなどでは,陪審裁判を受けるのは被告人の権利     (放棄可能)⇒選択可 ・・・韓国の国民参与制度も同じ ○日本の裁判員制度では,裁判員裁判は被告人の権利ではな    く,司制度ないし国民一般に裨益する制度という位置付け      ⇒対象事件については裁判員裁判が望ましいという立法       的政策上の判断

  24. Ⅲ 裁判員裁判の実施状況 1. 5年間の準備   ・国民に対する広報活動   ・公判廷等の改修   ・法曹三者間の協議   ・法曹三者各々の法廷活動についての工夫・研修    ・模擬裁判等

  25. 法曹三者の準備活動例 ○裁判所   ・法定の改修(AV機器の開発・設置を含む)   ・各地方裁判所での模擬裁判   ・各地方での法曹三者協議会   ・司法研修所での実務研究会,最高裁での協議会等   ・刑事法学者,鑑定人候補者等との研究会(用語,説明等) ○法務省・検察庁   ・最高検察庁裁判員公判部の設置,基本方針の策定   ・法務総合研修所での法廷活動(話し方,AV機器の使用)の研修   ・各地での模擬裁判,協議等 ○弁護士会   ・裁判員実施本部の設置,マニャアル等の作成   ・米国弁護士等を招聘した研修・研究会   ・各地での模擬裁判   ・刑事法学者等の協力による易しい法廷用語集の作成等

  26. 2.裁判員制度の実施状況 (1) 概 況  ○2009年5月21日の裁判員法施行から17ヵ月     同年8月の初の裁判員裁判(東京)から15ヵ月  ○当初は起訴人員数に比べて処理少なく,停滞の印象     ・始めなので関係者慎重(起訴も)     ・公判前整理手続に時間を取り,入念に準備    ⇒次第にペースアップ  ○2011年1月末までに     ・起訴人員3,100中終局裁判1,781名)(57%)    

  27. 裁判員制度対象事件罪名別裁判所新受人員(2009.5~2011.1)裁判員制度対象事件罪名別裁判所新受人員(2009.5~2011.1) 総数 3,100

  28. 裁判員対象事件罪名別第一審終局人員数(2009.5~2011.1)裁判員対象事件罪名別第一審終局人員数(2009.5~2011.1)

  29. (2)裁判員の選任 ○国民の参加意欲と協力度   ・開始前は疑問とする声も     ・・・各種アンケート結果:積極的に参加するとの答え少数

  30. 22.2% 4.4% 47.6% 参加意欲(全国,2008年3月)

  31. ○負担軽減の措置 ・繁忙期回避の調整      ・争点の整理や計画的審理などによる裁判の期間    の短縮       (7割の事件は3日間以内,9割の事件は5日間以内) ・休業についての不利な取り扱いの禁止 etc.        ⇒企業等の特別休暇制度整備

  32. 約295,000名 選任過程の実績 2009年用 約344,900名 2010年用 約315,900名 2011年用 148,868名 110,331名 呼び出さない措置 38,537名 56,662名 (出席率80.6%) 裁判員10,074名 補充裁判員3,602名 呼出し取消し 40,061名 *「選定」以下(青ラベル)の数字は2009年8月~2011年1月実施の裁判員裁判事件の実績

  33. ○調査票や質問票に対する回答率高い ○具体的事件の裁判員選任手続への出席率も80%超 ○前提として,相当の余裕を持って候補者を選定   事前の調査票・質問票への回答を基に,かなり緩やかに免除 ○呼び出しに応じて選任手続に出席したが最終的に裁判員・補 充裁判員に選任されなかった者が多数 逆に,「せっかく仕事の調整などしたのに」という不満も  ⇒呼出数をどこまで減らせるかが一つの課題

  34. (3) 審理期間等 ○公訴事実にほとんど争いのない(量刑のみ争点の)事件が先行 ○公判前整理手続に相当の期間をかけているが,公判の審理   は,大半の事件で3~5日,長くて10日以内に終了 ○ほぼ連日開廷    週末を間に入れて設定する例も      ⇒裁判員の家事,リフレッシュ,整理の時間

  35. 実審理期間別判決人員(2009.8~2011.1) *実審理期間=第1回公判から終局まで 1月を超える枠内の35人は,区分審理を行ったもの及び裁判員裁判対象事件以外の事件 について第1回公判を開いた後,裁判員の参加する合議体で審理されて終局したものなど

  36. 公判開廷回数別判決人員(2009.8~2011.1)

  37. 裁判員職務従事日数別判決件数(2009.8~2011.1)裁判員職務従事日数別判決件数(2009.8~2011.1) 平 均 4.2日 *職務従事日数=選任手続,  公判,評議及び判決宣告等の  ため裁判所に出席した実日数  の合計

  38. ○2010年春頃から,争いのある事件や死刑等重刑の求刑が○2010年春頃から,争いのある事件や死刑等重刑の求刑が   予想される重大事件の公判が開始    ・無罪判決6     他にも一部無罪,縮小認定が数例    ・審理期間(特に公判前整理手続期間)も長くなる     実質審理期間・公判開廷回数もやや増   ・死刑の求刑が予想される事件では評議にも十分な期     間を設定   ☆現在までの最長:裁判員選任から判決まで40日間。      ただし,公判は平日のみ10日間,評議に実質最大約      2週間を確保(2010.11~12,鹿児島夫婦殺し事件)

  39. 自白事件・否認事件の割合の推移(2009.8~2011.1)自白事件・否認事件の割合の推移(2009.8~2011.1)

  40. 審理期間・開廷回数(平均) *全審理期間=裁判所の事件受理~終局裁判 **実審理期間=第1回公判~終局裁判。 ☆算定の基礎となった事件には,裁判員裁判対象事件以外の事件について公判を開始した後に,対象事件と併合され,裁判員の参加する合議体で審理されたものが含まれている。

  41. 長期の審理期日が設定された事例 ○鹿児島強盗殺人事件(2010.11~12 鹿児島地裁)  被告人は,91歳と87歳の老夫婦を殺害したとして強盗殺人の罪で逮捕・起訴されたが,一貫して犯行を否認。  弁護側は無罪を主張,全面的に争う方針で,公判前整理手続でも,ほとんどの書証の取調べに不同意,争点の絞り込みができていないため,鹿児島地裁は,11月1日の裁判員選任手続から判決(12月10日)までの期間を40日間(土日・祝日を含む。ただし,公判の審理は11月2~16日の平日のみ10日間。17日以降判決まで裁判官と裁判員による評議)と設定。 11月1日 裁判員6名,補充裁判員4名選任(候補者を2回にわたり計450名選定,295名呼出し,辞退を認められた者を除く79名中34名出席)。 11月2日から始まった公判では,検察側は,被告人の犯人性を立証するため,犯行現場で採取された指紋や細胞片のDNA型がいずれも被告人のものと一致したことを強調,これに対し,弁護側は,それらの原資料の保管方法の不備を指摘,いずれも真犯人の偽造か捜査機関のねつ造の可能性があるとして,それらの鑑定結果の証拠価値を否定。16日までに,これらの点をめぐり,27名の証人の尋問が行われ(尋問時間計約28時間),裁判員による現場検証も実施。 11月17日,検察側死刑求刑,弁護側無罪主張。 鹿児島地裁2010年12月10日判決《無罪》 検察官控訴

  42. (4) 公判の審理 (a) 法廷等       裁判員裁判法廷(北海道・釧路地方裁判所における模擬裁判) 〈裁判所広報パンフレットから〉

  43. 法廷に設置されたディスプレイ(広島地方裁判所)法廷に設置されたディスプレイ(広島地方裁判所) (裁判所パンフレットから)

  44. ○法廷   ・AV機器の活用   ・裁判官・裁判員・両当事者用モニターと傍聴者用ディスプレイ     証拠等の性質(被害者の遺体写真等)により後者切断 ○被告人についての配慮   ・服装 勾留中の場合にもジャケット等に着替えさせる例        裁判員入廷前に手錠・腰縄はずす        弁護人の横に着席

  45. (4) 審理方法等 ○法廷で見て聞いて分かる弁論・立証が浸透   ・冒頭陳述は1~2枚のメモを配布(表やチャート等を使用)     争点,要証事実と証拠との関係明示   ・被告人側も冒頭陳述   ・争いのない事件の場合,検察側立証は書証使用     量を限定,要点のみを朗読   ・証人尋問・被告人質問は,証人が裁判員の方を向いて答え     られるよう質問者が立ち位置を工夫   ・鑑定結果などの提示・尋問には,適宜,図,イラスト等を活用   ・被害者の遺体や負傷状況等の写真の展示は必要最小限の     範囲・部分に限定

  46. ○裁判官も,証人等の発言に分かりにくい点や不十分な点があ○裁判官も,証人等の発言に分かりにくい点や不十分な点があ    ると即座に補充質問,独自の視点からの質問も多い ○裁判員も比較的積極的に質問    ・質問し易いように,証人の証言・被告人の陳述の後,休憩      を入れ,緊張をほぐしたり整理の時間を取る配慮も    ・両当事者の質問とは別の視点からの的を射た質問も少な      くない ○裁判員の集中力確保・疲労防止のため,比較的頻    繁に休憩 ○検察官・弁護人の準備の負担は大幅に増加    ・裁判官・検察官の増員わずか     ⇒非対象事件の処理に影響という指摘も    ・弁護人は共同受任の例多い(国選も複数選任増加)

  47. 検察官の執務体制・準備(一事例)  被告人は飲酒運転で事故を起こして逃走を図り,止めようとした被害者を車のボンネットに乗せたまま約2キロ走行した上,振り落とし,加療11日間を要する傷害を負わせたという殺人未遂事件の審理(熊本地裁)で,検察側は,逃走経路を事件と同じ夜の時間帯に車でたどった映像や,逃走経路を俯瞰した空撮写真を用意し,冒頭陳述や証拠調べの際に法廷内モニターに映すことにより犯行を再現した。  裁判員裁判開始を控えた昨春,熊本地検は検察官の体制も見直した。捜査と公判それぞれの専従をなくし,4班に再編。各班が対象事件を捜査から公判まで携わるようにした。捜査段階から事件を詳細に把握した検察官が,法廷で効果的な立証を展開する狙いだ。  公判前には冒頭陳述や論告求刑をリハーサルする。熊本地裁そばにある地検の一室には「犯行状況をもっと強調した方がいい」と手直しを指示する幹部の声が響く。・・・次席検事は「これまで蓄積したノウハウを生かし,裁判員に理解される事件の立証を目指したい」と強調する。(熊本日日新聞2010年5月22日朝刊)

  48. 弁護人の苦労(一事例)  「開廷中は徹夜の日々だった。普段なら考えられないこと」。裁判員裁判を担当した県内の弁護士は打ち明ける。その日に法廷で出された証拠や証言を精査し,翌日以降の裁判に生かすためだ。「検察側は組織的に準備が できる。組織力の差は歴然」と認める。  弁護側は,情報面でハンディがある中,公判前整理手続きまでに事件について腹入れし,弁護方針を立てなければならない負担も抱える。ある弁護士は「何度も被告の元に通ってコミュニケーションを図る。ほかの業務もある中で拘置先への往復は大きな負担」とこぼす。(愛媛新聞2010.5.24朝刊4面)

  49. 裁判員にとって審理は理解しやすさかったか?裁判員にとって審理は理解しやすさかったか? (2010年中に実施の裁判員裁判で裁判員を務めた人に対するアンケート結果)

  50. 法廷での手続全般について分かりにくかった点・理由法廷での手続全般について分かりにくかった点・理由 (2010年中に実施の裁判員裁判で裁判員を務めた人に対するアンケート結果)

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