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二つの地球環境問題と東アジア共同体の可能性. 参議院環境委員会調査室 杉本勝則. 2009 年 6 月 27 日. はじめに(問題の所在). ○韓国の 韓昇洙首相 は、 5 月の 『 アジアの未来 』 会議で「欧州統合の経験は、地域統合を進める過程で示唆するものが多く、域内でビジョンを共有し、政策をともに調整していく必要性が高まっている。」、 「アジアの場合は、低炭素社会を目指す 『 グリーン技術 』 と 『 クリーンエネルギー 』 が欧州の 『 石炭と鉄鋼 』 にあたる統合の核になる。」 と述べるなど、国際的に域内統合の機運は高まっている。
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二つの地球環境問題と東アジア共同体の可能性二つの地球環境問題と東アジア共同体の可能性 参議院環境委員会調査室 杉本勝則 2009年6月27日
はじめに(問題の所在) ○韓国の韓昇洙首相は、5月の『アジアの未来』会議で「欧州統合の経験は、地域統合を進める過程で示唆するものが多く、域内でビジョンを共有し、政策をともに調整していく必要性が高まっている。」、「アジアの場合は、低炭素社会を目指す『グリーン技術』と『クリーンエネルギー』が欧州の『石炭と鉄鋼』にあたる統合の核になる。」と述べるなど、国際的に域内統合の機運は高まっている。 ○我が国においても、景気対策として日本版グリーン・ニューディールが打ち出され、環境を軸とした社会作りに動きだしたかのようである。しかし、個別の政策を見ると温暖化対策と景気対策の両立を図るという当初の目的から疑問符のつくものも見られる。 ○また、肝心の国民負担の問題についても、これまで本格的な議論がなされないまま放置され、重大な局面である中期目標決定に至って初めて激しい議論が巻き起こっている。 ○我が国はこれまで数々の温暖化対策を行ってきたが、その成果は、2007年度温室効果ガスの1990年比+9%増である。 ○我が国においても、温暖化問題についての国民の関心は高く、また、各企業も生き残りをかけて温暖化対策対応をセールスの核に据えている。しかし、高速道路1,000円乗り放題の初日にCO2排出増加に触れたテレビニュースが皆無だったことに見られるように、温暖化問題が本当に理解されているのか、時に疑問を感じることがある。 ○本講演において、いま一度、地球温暖化を含めた地球環境の問題を本質に遡って考えることで、環境を軸にした未来の東アジア共同体への可能性を考えてみたい。
1.人類の外なる危機としての地球温暖化 ○温暖化問題は本当に理解されているのか? ・温暖化:地球上の液体水分が多くなり、湿潤化 ⇒農作物にとって好都合?のはず。 ・寒冷化:地球上の液体水分が氷となり、寒くて乾燥化⇒農作物にとっては不都合。 ・温暖化懐疑論・オイルピーク論は未だ健在? ⇒シロクマの問題ではなく、次は「あなた!」の問題。 ○科学的に明らかになっていることとそうでないこと ・IPCC第4次報告書から分かること ・氷河の貯水機能→冬季に貯水し、夏季に排水。これが降れば土砂降り、晴れればカラカラに⇒水分が多くなるのに18億人の水不足 ・アマゾンの乾燥化は実際に始まっている。 ⇒ 5,500年以前のサハラは緑豊かな大地 ・ツンドラ地帯では、永久凍土が融けだしている。 ⇒地中のメタン(温室効果21倍)が噴出 ・グリーンランド、南極の氷床崩壊と海面の急上昇? ⇒2mの海面上昇(5m説も) ・海洋の深層循環→温暖化により欧州は寒冷化? ⇒地域の気候の激変 ○温暖化には良い影響と悪い影響の両面がある。但し、これも2℃上昇までの話。 ⇒ 記録された人類の歴史を見ると多くの場合、寒冷期に混乱、王朝交代等が起こっているがこれも、せいぜい2~3℃の変化の範囲内。 温暖化対策を行わないと、最悪で6℃の気温変化の可能性あり(マンモス絶滅時の変化?) ⇒ この100年間の気温上昇は、たった0.74℃に過ぎないのにこの大騒ぎ。今から最大限の対策を取っても2℃の上昇を受入れなければならないのが現実。 ○更に、現在の地球上には、66億の人が住み、2050年には91億人へ。環境難民は、2050年に2億人に。 ⇒温暖化を逃れて移動した先には先住者が・・・・・(cf. グレート・ジャーニーの時代) イースター島のモアイ像が語るものは・・・・・ 過去の歴史は、凄惨な殺害、略奪を語っている。ダルフールの悲劇は未来の地球の姿? 問題の本質は、地球『温暖化』問題でなく、『気候変動』『安全保障』 問題
・温暖化は、高緯度では便益が高まる所もあり、地球全体としてみた場合は、2℃程度の上昇までは許容範囲内。しかし、それ以上を超えると悪影響が大きくなる。・中国史においては寒冷期に王朝交代が多く見られるが、それでも2~3℃程度の変化。温暖化対策を行わない場合6℃の気温上昇となる。・温暖化は、高緯度では便益が高まる所もあり、地球全体としてみた場合は、2℃程度の上昇までは許容範囲内。しかし、それ以上を超えると悪影響が大きくなる。・中国史においては寒冷期に王朝交代が多く見られるが、それでも2~3℃程度の変化。温暖化対策を行わない場合6℃の気温上昇となる。
IPCC第4次報告のケーススタディー ・温暖化にはプラス・マイナス面があるが、2℃程度の上昇で抑えないとマイナス面が顕著になる。 ・そして、この温度上昇の範囲で収めるためにはCO2の排出を少なくとも50%以上押さえることが必要となる。 環境省資料
・氷河は天然の貯水池で、河川の流量の安定に寄与している。温暖化により大河川の流域を中心に2080年までに18億人が水不足に苦しむと見られている。 ・深層循環によって暖流のメキシコ湾流が北上し、ヨーロッパは緯度の割りに暖かくなっている。温暖化により深層循環が止まるとヨーロッパは逆に寒冷化するのではないかと見られている。 メキシコ湾流 環境省資料
・赤丸の降水量の減少する地域に注目!・ヨーロッパ・アフリカ、カリフォルニア、アマゾンの乾燥化は既に始まっている?・赤丸の降水量の減少する地域に注目!・ヨーロッパ・アフリカ、カリフォルニア、アマゾンの乾燥化は既に始まっている? 環境省資料
・北海道は、現在、リンゴの生産適地ではないが、温暖化により適地になる。また、関東がミカンの適地になる。近年、北海道ではおいしいコメが採れるようになっている。・九州では、温暖化で夏に深刻な水不足が予測される。近年、コメが高温のために発育不良となっているので、作付けを早めるなどの対策が取られている。・北海道は、現在、リンゴの生産適地ではないが、温暖化により適地になる。また、関東がミカンの適地になる。近年、北海道ではおいしいコメが採れるようになっている。・九州では、温暖化で夏に深刻な水不足が予測される。近年、コメが高温のために発育不良となっているので、作付けを早めるなどの対策が取られている。 農水省資料
参考 ○中国の温暖期 ・殷時代(~BC13C)=現在より2~3℃高かった。象や水牛がいた。 ‘酒池肉林’の世界? ⇒縄文時代、ミケーネ文明、ヒッタイト ・唐時代(7~9C) =小麦作の普及→夏税(絹、麦)と冬税(稲、粟)の両税法へ。 豊かな唐文化への憧れ→遣唐使 モンスーンの弱化による乾燥、寒冷化で滅亡、五代十国へ ⇒ヨーロッパ中世温暖期?(9~13C、グリーンランドの開発) ○中国の寒冷期 ・殷末周初(BC12~11C)=‘酒池肉林’の終焉。紂王は、寒冷化に疎かった? 周王朝は西方の遊牧民? ⇒ミケーネ文明の崩壊。海の民? ・五胡十六国(4~5C)=五胡は、三国志の時代から中国北西部に移住。 ⇒匈奴≒フン族≒ゲルマン民族大移動? ・南宋末元初(13C) =遼、金、元と中国北部のめまぐるしい王朝交代。 ⇒モンゴル帝国の出現、ペストの大流行 ・清・康熙帝期(18C) =王朝交代の例外? ⇒フランス革命 ⇒ 中国の王朝交代は、周辺民族の侵入から始まる例が多い。寒冷化による遊牧民の食糧 を求めた移動が契機? 当時5~6,000万人の人口が3分の1になった例も。
2.より本質的な問題としてのCO2濃度の増加 ○地球のCO2濃度は下図のように増減を繰り返しながら、次ページのように300ppm以下に抑えられてきた。そして、このCO2は石炭や石油等の化石燃料として地中に閉じ込められ、現在の安定した地球の気候になっている。 次ページ表へ 石炭・石油・ 土壌等 石炭・石油 ・土壌等 筆者加工資料
○現生人類であるホモサピエンスが生まれる遥か以前から、地球のCO2 濃度は300ppm以下に保たれていた。これを人類が790ppmまで高めるかもしれないところに問題の本質がある。 ○「人類の歴史上の記録」の期間は地球の歴史からはほとんど気温変化がないと見られる時期だが、この間においても記述された歴史は気候変動に伴う様々な動乱・殺戮を伝えている。 ○790ppmのCO2濃度は人間の健康に短期的・直接的な影響はないが、海洋微生物から始まる生態系への微妙な変化が生物の生態系に与える影響が心配されている。 790ppm 農耕文明の始まり 300PPM マンモスの絶滅(6℃の変化) 人類の歴史上の記録 ホモサピエンスの誕生
3.もし、温暖化の事実が間違っていても 地球温暖化論に対しては、温暖化懐疑論、オイル・ピーク論等様々な反論がある。しかし、もし、温暖化の事実が間違っていても、地球、特に我が国にはプラスとなる。 ⇒温暖化問題は詰るところエネルギー問題であり、石油等化石燃料は有限な資源 エネルギー白書2008
・日本の石油依存度は5割、しかも中東依存度は9割を超えている。・日本の石油依存度は5割、しかも中東依存度は9割を超えている。 ・ライフスタイルの変更を含めた、新エネ・省エネの推進が可能に エネルギー白書2008 ・温暖化対策は、新エネ、省エネの新技術を生み、それがエネルギーの安全保障につながる。 ・世界にとっても低炭素化社会の実現は利益となる。 経産省資料
4.人類の内なる危機としての化学物質 ・我が国における児童等の喘息被患率の推移 ・我が国における先天異常発生頻度の推移 学校保健統計(文科省) 国際先天異常監視機構 ○化学物質の懸念が指摘されている事項 ・小児アレルギー(アトピー、ぜん息等)の原因説 ・発達障害(先天異常)の原因説 ・精神発達障害(学習困難等)の原因説 ・甲状腺機能異常の原因説 ・若年性糖尿病の原因説 ・若年性肥満の原因説 ・不妊の原因説 ・性比異常の原因説 ○環境省は6万人規模の「子どもの健康と環境に関する全国調査」を実施中 環境省資料
○化学物質が直接遺伝子を傷つけたり、擬似ホルモンの働きをすること で、遺伝子を混乱させる。 ・10年ほど前に環境庁(当時)の「環境ホルモン戦略計画SPEED’98」で67物質を上げ調査を行ったことで関心が高まったが、環境中の化学物質は当初考えられていたような危険性はないとも言われていた。 しかし、最新の研究ではプラスチックなど、これまで安全とされてきた製品に関して予期せぬ発見が相次いでいる。 ⇒ビスフェノールAなど、極低濃度で遺伝子行 動に影響を与える物質があることが明らか になってきている。 ○胎児や乳幼児などに対する化学物質の影響が心配されている。 ・米国人の乳児10人の臍帯血を対象に413種の工業用化学物質について検査した結 果、平均で200種類、合計271種類を検出→特に高齢の初産の場合に高リスク ⇒化学物質に対し、新たな見直しの動きが急ピッチで進んでいる。
5.二つの危機を明らかにしたもの 1.サイエンス(自然科学)の発達 ○温故知新が「過去を訪ねて指針を得よ」とするなら、サイエンスは「未来を訪ねて指針が得」られる唯一の有効な手段(江崎博士) ⇒ サイエンス=過去のデーター+自然法則+ スーパーコンピュータによる未来「予測」(「予想」「予言」でない点がサイエンス、但し、発展途上中) ○地球温暖化の解明は、科学者による地道な観測結果の成果+スパコン予測 ⇒温暖化対策についても、科学的には行うべき対策の結論は決まっている。(IPCC第4次報告) ・放射性同位元素による年代測定法 (炭素の場合、半減期は5,730年) ・湖沼の堆積物(年縞)からは、花粉化石の分析により気温、乾湿状況が明らかになる。 ・氷床のボーリング調査から、過去の地球の大気組成、温度が明らかになる 環境省資料 ・グリーンランドの氷床融解は、人工衛星による重力測定でも判明 安田喜憲氏資料
○タンパク質、化学物質・医薬品の分子構造が明らかになることにより、スーパーコン○タンパク質、化学物質・医薬品の分子構造が明らかになることにより、スーパーコン ピューターによる分子設計が可能に⇒『生物』としての人間に対する理解の高まり ○未知なる危機の発見とこれに対する対応力の強化 ⇒新型インフルエンザ対策に見る地球の一体化 ・台風進路のシミュレーション ・地球シミュレーター(海洋研究開発機構・横浜) 海洋研究開発機構資料 ・自動車衝突シミュレーション(左:計算上、右:実験結果) ・インスリン6量体静電ポテンシャル計算 実物実験結果 100万メッシュ 1000万メッシュ 海洋研究開発機構資料 理化学研究所資料
2.ガイア理論の誕生 ○惑星の大気の研究から、地球を生物の微妙なバランスの中で生きる一つの「巨大な生命 体」(奇跡の星)と考える。 ⇒ ヒト中心の思想から、地球の一員としてのヒトの自覚へ(生物多様性の中で、ヒトは 独自のシステムを持つ生物に過ぎない) ○提唱者のジェームズ・ラブロックは当時NASAの大気研究者、共同提案者のリン・マー ギュリスは細胞内共生説(ミトコンドリア等)の発表者 ○古来からの「母なる大地」概念に科学的根拠を与えたもの ⇒ ヒト中心の西洋合理主義は果たして合理的だったのか? cf.ピルトダウン人騒動 ⇒ 「経済」の本質(資源の最適配分)にもつながる考えなのでは? 行き過ぎた資本主義への反省→資本主義は一つの形態だけでないという意味での ソーシャル・キャピタリズム、IBMの階層・職階型組織から自立創造型組織への変更 3.冷戦構造の終結等(「核の冬」の終焉) ○冷戦はイデオロギーの名の下に合理性、サイエンスを軽視 ⇒ 発達したのは技術科学だけ。共産圏における大量の環境破壊。 ○概念論的イデオロギーの制約を離れたところに、サイエンスに裏付けられた新しいイデオ ロギーが生まれるのでは? cf.フランス革命時の理性崇拝 ○米国宗教右派の地球温暖化問題に対する考え方の変化 ⇒環境破壊は神(ガイア?)の意思に反するのでは? 軍事を超える脅威の存在:戦争の世紀(20世紀)から生存の世紀(21世紀)へ
6.二つの危機に対するEUの対応(地球温暖化対策)6.二つの危機に対するEUの対応(地球温暖化対策) 1.温暖化対策の背景 ・2003年夏の熱波だけで5万人以上の人が死亡 ・中東欧での大洪水とロンドンを襲う高潮被害 ・地球シミュレータによる温暖化影響予測の結果 2.EU委員会の強力な政策の下、地域としての温暖化対策の取組を強化 ○2020年温室効果ガス20%削減に向けた着実な取り組み ・EU気候変動政策パッケージで、2020年までに①温室効果ガスを20%削減②再生可 能エネルギーの割合を20%に③交通燃料の10%をバイオ燃料に④エネルギー効率 の20%の改善⑤エネルギー消費量の20%削減の目標達成を目指す ○EU域内排出量取引制度(EU‐ETS) ・2005年1月から開始。試行錯誤を重ねながら、2020年の第3フェーズまで実施 ・対象範囲の拡大、CO2地中貯留の取扱い等細則部分での規定の整備 ・EU-ETSを軸に国際的な排出量取引市場(ICAP)構築の動きが急→東京都も参加 3.各国独自の取組 ⇒域内への波及 ○イギリスの気候変動法 ・法案段階では2050年のCO2削減目標値を-60%としていたが、-80%とすることで成立 →少なくとも2050年まではCO2が価値を有することを保証(埋蔵量の上乗せ?) ・イギリス産業連盟は中長期の削減目標を法定化することを積極的に評価
○ドイツの太陽光発電電力の固定価格買取保証制度(フィード・イン・タリフ)○ドイツの太陽光発電電力の固定価格買取保証制度(フィード・イン・タリフ) ・固定価格で電力の20年間買取を保証。投資リスクがゼロで長期投資が可能に ・ドイツはアッという間に日本を抜いて、世界一の太陽光発電設置国に ・連邦環境省は2020年までに40%削減のコストを、CO2/1トン当たり、-34ユーロ (-4,420円)と試算。つまり、CO2の削減は二重の利益を生むと計算 ○デンマークは風力発電による国起こし ・2025年までに風力発電比率を50%に ・風力発電関連事業による景気の牽引→ヴェスタス社の風力発電設備を世界に輸出 ○各国の行政体制は ・イギリスでは、昨年10月にエネルギー・気候変動省に改変 ・ドイツでは、連邦環境・自然保護・原子力省で温暖化防止、環境、エネルギーを担当 ○その成果は、温室効果ガスは2007年、ドイツは-22.4%、イギリスは-17.9%、フランスは-5.8%に →我が国の場合、2006年度は+6.3%、2007年度には+9.0%に cf.中国は第11次五ヵ年計画でGDP当たり、2005年比で20%の「省エネ」目標を掲げ、2007年で -10.9%(GDP調整済値)の削減実績 日本は、2003年度以降だけでも8兆円以上の予算を使いながら、温室効果ガスが増加している事実→京都議定書失敗論は日本のヤル気を疑われるだけでは? cf.米国の場合、人口が増加中(2020年には33.4%増)
○2007年度の温室効果ガス排出量(確定値) ○温室効果ガスEU各国削減目量と実績 環境省資料
○中国第11次五ヵ年計画(2006~10年) →経済成長至上主義から全面的調和と持続可能な発展へ ・2005年比でGDP原単位当たりのエネルギー使用量を20%削減 ・「拘束性目標」を提示→「一票否決制度」「地域認可制限」の導入、 地方政府幹部ポストで今、一番就きたくないポストは環境保護局長? ・実績は、GDP原単位当たりエネルギー使用量は3年連続低下、08年は05年比で10.9%(GDP調整済値)に改善。 IGES小柳秀明氏資料
(化学物質対策) 1.化学物質対策の背景 ・国際的な取り組みの進展(1992年地球サミットの「アジェンダ21」、2002年ヨハネスブルクサミット の「世界実施計画」→WSSD目標、SAICMで実施) ・酸性雨による「黒い森」の立ち枯れ、化学物資によるライン川の汚染事故、チェルノブイリ原発事 故(国境を越えた問題意識の醸成→温暖化問題も同様) ※WWSD:持続可能な開発に関する世界首脳会議、SAICM:国際化学物質管理戦略 2.RoHS指令の実施(2006年7月) ・電子・電気機器における鉛、水銀など6物質の原則使用禁止。 ・2001年10月の「ソニーショック」が嚆矢:ゲーム機内の配線被覆からオランダの規制値以上のカ ドミウム検出が検出され陸揚げ禁止→ソニーは190億円の損害を被り、「ソニー・スタンダード」へ →中国版RoHS,日本のJ-Moss 3.REACH指令の実施(2008年10月) ・原則として安全性のデーターのないものは流通させない ・化学物質の使用には企業が責任を持ってリスク評価を実施 ・製品に含まれる化学物質情報を企業間で伝達することを義務付け →日本の化学物質審査規正法の改正 4.EU基準のグローバル・スタンダード化 ・EU基準に合わないものは輸出できない→ETCは欧州規格がアジアを制覇 ・過剰とも思えるEU基準も、国際合意(WSSD等)の究極目標に過ぎない 日本は、後追い。過去の競争力・技術力を過信し、時代の変化に対応していないのでは?
7.EUの環境政策と東アジア共同体への展望7.EUの環境政策と東アジア共同体への展望 1.欧州委員会主導の環境政策 ・欧州委員会指令が加盟各国の環境法の内容を拘束、ないし重要な構成要素となっていること ⇒EUの拡大に伴う先進地域と後進地域との利害対立とこれの調整が前提(排出削減枠等) ・EUの政策執行機関である欧州委員会が、立法の発案件を独占し、立法過程で重大な修正は例 外であること ⇒ EU官僚による思い切った政策の展開が可能⇔欧州議会の権限強化の動き サイエンスvs.民主主義(官僚的独善政治vs.衆愚政治?)の対立の調和点をどう見出すか 2.EU環境政策を加盟国に納得させるシステムとしてのサイエンス ・EUとは構成国による調停・批准を経た条約を基礎にする前例なき政体→国家は引き続き存在し、 加盟国間の共通利益の認識と協調的関係に支えられている。 ・議長国は輪番制なので大国が小国を押さえつける議論は通用しない ⇒「科学」「公平性」「理論」「経済モデルや実践例」などの合理性あるものを通した議論 これは、東アジア共同体においても応用できるのでは・・・・・「覇権を求めず」の重要性 ・EU全体に割当てられた温室効果ガスの排出削減枠(-8%)を加盟国別に割当てる作業は、京都 議定書会議における割当て作業のローカル版そのもの ⇒今後、東アジアの途上国を含めた全世界の国々の温室効果ガス削減が不可欠。 具体的作業は、全世界同時参加の会議よりも地域毎の会議による削減作業のほうが機動的 地域の排出削減枠交渉を軸とした東アジア共同体の可能性が考えられないか?
3.EUの化学物質規制が東アジアにもたらすもの3.EUの化学物質規制が東アジアにもたらすもの ・生産の地域国際分業は即ち、公害・環境負荷の地域国際分散 ⇒東アジアにおいても、生産拠点が先進国から途上国に移るとともに公害・環境負荷も途上国に 移転 ・途上国における環境汚染はその製造物、生産物(特に食品)の輸出にも影響 ⇒化学物質規制国に輸出ができなくなるというることは、生産国においても環境汚染対策が必要 ということ ・このことは域内生産における環境協力が不可欠になるということ ⇒環境負荷の少ない生産拠点とするための域内国際取り決めが必要(世界中で同じ規制をしてし まえば競争条件は同じ→環境負荷増大によるメリットがなくなれば環境負荷も減少) 日本の公害技術、公害体験をいかした環境協力を軸に、東アジア共同体が可能ではないか? 東アジア域内における中間財貿易の推移(2007年版通商白書)
8.より根源的な意味からの共同体の必要性 1.エネルギー消費の観点からは、全世界単一のグローバル化よりも産業・生産拠点を ブロック化したほうが有利。 ・情報通信が発達した現代においては、原材料・生産物が世界中を行き来するのは資源・エネル ギーの無駄遣い(コスト上昇要因) ⇒ブロックごと資源、エネルギーの最適配分ができれば、地球資源的には共同体はBetter 自動車メーカー、家電メーカーの現地生産、漁業における栽培漁業.etc 2.膨大な人口を抱える東アジア地域において、中産階級の増加、貧困層の生活向上に 伴うエネルギー消費、CO2排出の拡大および環境難民発生の危惧 ・エネルギー需要の増大に対しては、太陽光発電等自然エネルギーの利用が必要不可欠 ⇒地域の枠組みの中で、自然エネルギーの普及が必要 温暖化対策版マイクロクレジット制度を提案 ・環境難民が生じることによる移住先についての地域協力の必要性 ⇒地球シミュレーター予測等による「傾向と対策」の交通整理を行うシステムとしての共同体 3.東アジアにおける市民意識の高まり ・ 中国においても、公害問題については積極的にNGO,NPOを活用。アセアンにおいても市民社 会ネットワークが広がってきている ⇒ これらの基盤の上に立ってはじめて共同体は可能(アジア共通のアニメ世代の出現) EUに見られるように、国家のあり方自体が国民・民族国家から市民中心国家・複合国家へと変化しつつある。また、一応のグローバル化が実現された今、その合理性への検証が求められているのではないだろうか。地球の未来のためにも・・・・・
ご清聴有難うございました なお、本講演のうち意見にわたる部分は発表者の個人的見解であることを申し添えます。 ※参議院ホームページの「調査室作成資料」⇒「立法と調査」欄で中国の環境問題、地球温暖化問題に関する発表者の小論を御覧になれます。 http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/index.html ・日中環境協力等 No.285、261 温暖化対策 No.288、275、269ほか
参 考 ○ 国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は第4次評価報告書( 2007年11月) (1)気温上昇のほとんどは人間活動によってもたらされた可能性がかなり高い。 (2)対策の厳しさに応じ、今世紀末の気温は20世紀末比で1.1~6.4℃上昇、海面は18~59㌢の範囲であがると予測。 (3)この上昇幅を2~3℃に抑えなければ損失が拡大する。影響抑制には2050年までに温室効果ガスの排出を半減させる必要がある。 (4)今後20年~30年間の気候変動緩和の努力と投資が気温上昇を低く安定させられるかどうかに大きな影響を与える。 (5)温暖化の進行を抑えるためには2050年までに全世界のGDPの最大5.5%(約300兆円)の費用が必要。 ○ 『低炭素社会・日本』をめざして」(福田ビジョン、2008年6月) (1)2050年までの長期目標として温室効果ガス排出量を現状比60~80%削減 (2)2020年までに現状比14%の温室効果ガス削減は可能。来年に中期目標を発表 (3)今秋に国内で排出量取引を試験的に実施 (4)環境税を含め、低炭素化促進の観点から税制全般を横断的に見直し (5)太陽光発電の導入量を2030年に現状比40倍に引上げ 等 ○ 北海道洞爺湖サミット(2008年7月7~9日)・ G8首脳宣言 (1)2050年までに温室効果ガス排出量の少なくとも50%を削減する目標ビジョンを気候変動枠組み条約の全締約国と共有する。 (2)排出量の絶対的削減を達成するため、野心的な中期の国別総量目標を実施する。 (3)ポスト京都議定書については、すべての主要経済国が意味ある気候変動緩和の行動を約束することが必要。 (4)セクター別アプローチは、各国の排出削減目標を達成する上で、とりわけ有益な手法。 (5)排出量取引、税制上の規制などの市場メカニズムは、価格シグナルを提供でき、民間に経済的利益を与える潜在力がある。