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国際経済 7. 生産要素の国際移動. 名古屋大学経済学部 柳瀬 明彦. 生産要素の国際移動. 今まで,生産物の国際貿易のみを考えてきた しかし,現実には生産要素も国際的に取引されている 国際資本取引 直接投資:経営の意思決定への参加を目的 証券投資:投資収益(利子・配当収入,キャピタルゲイン)を目的 国際的な労働移動 高度な専門知識や技術をもつ人材(例:頭脳流出) 単純労働(例:出稼ぎや移民). 国際資本移動. 資本収支=投資収支+その他資本収支 対外純資産↑(↓)=資本流 出 (流 入 ) ⇒ 資本収支 赤 字( 黒 字). 国際資本移動(つづき).
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国際経済7. 生産要素の国際移動 名古屋大学経済学部 柳瀬 明彦
生産要素の国際移動 • 今まで,生産物の国際貿易のみを考えてきた • しかし,現実には生産要素も国際的に取引されている • 国際資本取引 • 直接投資:経営の意思決定への参加を目的 • 証券投資:投資収益(利子・配当収入,キャピタルゲイン)を目的 • 国際的な労働移動 • 高度な専門知識や技術をもつ人材(例:頭脳流出) • 単純労働(例:出稼ぎや移民)
国際資本移動 資本収支=投資収支+その他資本収支 対外純資産↑(↓)=資本流出(流入) ⇒ 資本収支赤字(黒字)
国際資本移動(つづき) • 資本収支:外国との間で行われた資産または負債の取引額 • 直接投資:直接投資家・直接投資企業間の全ての取引(投資) • 株式取得、再投資収益,資金貸借が含まれる • 直接投資関係:出資の割合が原則として10%以上の場合 • 証券投資:株式やその他の負債性証券(「直接投資」,「外貨準備増減」に含まれるものを除く)の対外取引 • 金融派生商品(デリバティブ): • オプション取引,先物および先渡取引,ワラント,通貨スワップの元本交換差額,金利スワップの取引に係る利子など • その他投資: • 貸付・借り入れ,貿易信用、現預金など • 資本移転:対価の受領を伴わない • 固定資産の取得または処分にかかる資金の移転,固定資産の所有権の移転,債権者による債務免除
国際資本移動の効果:マクドゥガル・モデル • G.D.A. MacDougall (1960), “The benefits and costs of private investment from abroad: a theoretical approach” • 2国(自国・外国)1財モデル • 財の国際貿易は行われない • 財は資本と労働を用いて生産される ⇒ 生産関数:Q=F(L,K) • 各生産要素の限界生産力は逓減 • 資本需要の決定 • 企業の利潤最大化問題:max π=p・F(L,K)-r・K-w・L • ⇒ 資本投入量に関する利潤最大化条件:「資本の限界生産力価値=資本レンタル料」 • 資本供給=各国の資本賦存量:一定とする
P・F(L,K) r1 r0 資本投入量 資本レンタル料 r0 r1 資本の限界生産力価値 資本需要 K0 K1
国際資本移動の効果:マクドゥガル・モデル(つづき)国際資本移動の効果:マクドゥガル・モデル(つづき) • 国際資本移動が禁止されている場合,各国の資本収益率=資本の限界生産力価値 • 各国の生産者の利潤最大化条件:資本の限界生産力価値=資本レンタル料 ⇒ 資本需要 • 国内の資本供給は一定 ⇒ 資本需要=資本供給になるように,均衡レンタル料が決定 • 資本「レンタル料」は資本需要者(生産者)から見た表現,資本供給者(投資家)にとっては,それは資本の「収益率」 • 仮定:自国の資本収益率<外国の資本収益率
国際資本移動が禁止されているケース OO*:世界全体の資本賦存量 外国の 資本収益率 自国の 資本収益率 外国の資本の 限界生産力価値 自国の資本の 限界生産力価値 O O* 自国の資本賦存量 外国の資本賦存量
国際資本移動の効果:マクドゥガル・モデル(つづき)国際資本移動の効果:マクドゥガル・モデル(つづき) • 国際資本移動が自由化されれば,自国から外国へ資本が流出 • 自由化前:自国の資本収益率<外国の資本収益率 • ⇒ 投資家にとってみれば,外国に投資した方が高い収益を稼げる • 自国の資本↓&外国の資本↑ ⇒ 両国の資本収益率は均等化 • 自国の生産額↓&外国の生産額↑ r0* E r1* r1 r0 外国の資本の 限界生産力価値 自国の資本の 限界生産力価値 O O* K0 K1 自国から外国への資本流出
国際資本移動の効果:マクドゥガル・モデル(つづき)国際資本移動の効果:マクドゥガル・モデル(つづき) • 各国の生産額の変化 • R=p・Q=p・F(L,K) ⇒ dR=p・FK(L,K)・dK • ⇒ 自国でR↓&外国でR*↑ • 両国とも利益を得る • 自国:生産額↓だが,外国への投資からの収益を受け取る ⇒ 全体として所得↑ • 外国:生産額↑ ⇒ ネット(自国から流入した資本に対する収益の自国への支払いを差し引いた分)の所得↑
国際資本移動自由化の効果 外国の所得の増加分 A* r0* E B r1 r1* r0 自国の所得の増加分 (□EBK0K1:外国からの投資収益の受取) A 外国の資本の 限界生産力価値 自国の資本の 限界生産力価値 O O* K1 K0 自国から外国への資本流出
多国籍企業と直接投資 • 海外直接投資(Foreign Direct Investment)の定義: • 民間部門における長期の国際間資本移動のうち,投資先企業の経営の意思決定に参加することを目的として外国企業の株式を保有するために行う投資 • 国際収支統計上:外国企業の株式の10%以上を保有 ⇒ 直接投資 • 10%未満 ⇒ 証券投資 • FDIは多国籍企業(multinational firms)によって行われる • グリーンフィールド投資:100%の出資をして投資先の国に新規に法人を設立 • 現地法人は完全な子会社なので、自由に経営に携われる • 発展途上国(現地企業が十分に育ていない)に対する直接投資に多い • M&A投資:外国の既存の企業に対する吸収合併や買収 • 既存企業の経営資源を活用できるので、比較的少ない資金で海外に進出できる • 世界の対外直接投資の中心(8~9割)
多国籍企業と直接投資(つづき) • 多国籍企業:外国で企業活動を行うことに伴う様々なコストの発生 • ⇒ FDIには、それらのコストをカバーするだけの優位性が必要 • 優位性の源泉:ダニング(J.H. Dunning)のOLI理論 • Ownership(経営資源を所有すること)の優位性 • 外国の現地企業よりも優れた経営資源(技術や企業経営に関するノウハウなど)を持つ企業・・・海外での事業展開も成功しやすい • Location(立地)の優位性 • 自国で生産して外国に輸出するよりも,現地生産した方が有利なケースの存在 • Internalization(内部化)の優位性 • 海外における分業や生産委託を市場を通じて行う(企業間取引)よりも、企業の内部に取り込むことにより、取引費用↓
多国籍企業と直接投資(つづき) • 多国籍企業の立地選択の要因 • 貿易障壁の回避 • 厳しい貿易障壁を設けている国に対する製品の供給 ⇒ 輸出の代わりに現地生産で対応 • 生産コストの削減 • 外国で生産した方が低コスト(労働者の賃金が高い,原材料や中間財の調達が容易) ⇒ 生産拠点を移転 • 販売拠点の設立 • 外国の消費者のニーズに合わせた製品開発、自社製品の認知度や普及度を高めるための販売促進,製品販売後のアフターサービスなど • 天然資源の安定確保 • 外国の資源開発拠点の確保 ⇒ 資源価格の変動リスクに直面することなく資源の安定供給が可能
多国籍企業と直接投資(つづき) • 直接投資が投資受け入れ国に与える影響 • プラスの影響 • 資本蓄積効果,雇用増大効果,競争促進効果,技術移転効果など • マイナスの影響 • 競争の阻害(MNFの市場支配力,国内企業の撤退,MNFと国内企業との合併や提携) • 労働問題(児童労働),環境破壊 • 直接投資が投資国に与える影響 • 産業空洞化(hollowing out of industry)の懸念 • 国内生産拠点の縮小 ⇒ 国内産業の衰退 ⇒ 国内雇用の減少や技術水準の低下 • しかし,国内の生産拠点の縮小を伴うFDIは比較劣位産業で起こる場合が多い ⇒ むしろ特化に基づく生産の効率性を高める • 最近の「新々貿易理論」:海外進出は企業の生産性を高める,という議論
国際的な労働移動 • 国際的な労働移動の現状 • 外国人労働者の割合:欧米諸国では高い • 高度な技術・知識を有する人材の受け入れ促進のための制度改正 • 日本:他国に比べると外国人労働者の割合は低いが,増加傾向 • 少子高齢化による労働力不足への対応として,外国人労働の受け入れ促進も検討 • 経済連携協定に基づく,看護師・介護士の受け入れ(インドネシア、フィリピン) • 不法滞在,外国人犯罪などの懸念 • 国際的な労働移動の発生要因 • 技能獲得 • 興行活動 • 研究者の在外研究 • 高賃金の獲得・・・発展途上国から先進国への労働移動の主要因
『平成23年度 年次経済財政報告 (経済財政白書)』より