320 likes | 385 Views
規範、国際機関そして グローバル・ガヴァナンス ― 国際通貨・金融制度の編 ―. 早稲田大学国際教養学術院 ⓒ 太田 宏. 国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス. 1. 金融資本と国際金融 金融資本 (financial capital ) :証券、債権、融資、通貨などの総称 国際金融 (international finance) 国際金融資本の移動方法 各国銀行の国際融資 多国籍企業などによる海外投資 移民による本国送金 非政府・非営利団体 (NGOs) による寄付金などによる資本移動 多国間機関(国際機関)による貸付・無償資金援助
E N D
規範、国際機関そしてグローバル・ガヴァナンス―国際通貨・金融制度の編―規範、国際機関そしてグローバル・ガヴァナンス―国際通貨・金融制度の編― 早稲田大学国際教養学術院 ⓒ太田 宏
国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス 1. 金融資本と国際金融 • 金融資本(financial capital ):証券、債権、融資、通貨などの総称 • 国際金融(international finance) 国際金融資本の移動方法 • 各国銀行の国際融資 • 多国籍企業などによる海外投資 • 移民による本国送金 • 非政府・非営利団体(NGOs)による寄付金などによる資本移動 • 多国間機関(国際機関)による貸付・無償資金援助 • 各国政府による在外駐留軍や基地へ資金移動 • 政府開発援助(ODA)
国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス 2. 国際通貨基金(IMF)の役割の概略 • IMFは、IMF協定(1945年12月発効)に基づき設立。 • 2008年、185カ国が加盟。日本は1952年に加盟。 当初期待されたIMF下の機能や役割が期待された。 ①加盟国に安定的な為替相場制度の維持を義務付ける監督機能、 ②加盟国の一時的国際収支不均衡を調整するための短期融資機能、 ③国際通貨協力の促進など
戦後の国際通貨制度の特徴 • 第二次大戦後の国際通貨制度=アメリカを基軸通貨国とした金為替本位制 • 金準備法による金1オンス=35ドルの金とドルの兌換制 • 固定相場制 • 通貨の金兌換はドル貨幣だけに限る。
金本位体制(固定相場制)崩壊の背景と要因 • トリフィンのジレンマ(あるいは流動性のジレンマ):米国ドルの金為替本位制における流動性(liquidity)、調整(adjustment)、および信認(confidence)の問題 • 米国の相対的経済力低下→経常収支黒字が減少して資本収支の赤字増大→米国通貨に対する信頼低下→各国の金兌換請求の増大⇒米国の金準備減少という悪循環 • 1971年8月、ニクソン大統領はドルの金兌換を停止→金為替本位制は事実上解体し、米国ドルを中心とする固定為替相場制は崩壊。 • 1973年、変動相場制に移行
国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス ・1973年の主要先進国の変動相場制への移行により、固定相場制の維持というIMFの最大の役割の終焉 ①の機能は各国の為替政策のサーベイランス機能へと変化;②の融資機能の拡充。 ・固定相場制→変動相場制への移行 →特別引出権(Special Drawing Right:SDR)の創設 ・IMF協定第一次改正(1969年7月):SDRの創設 ・第二次改正(1978年4月):SDRを準備資産の共通表示単位に 主要通貨の標準バスケット方式(通貨の相場の加重平 均)
国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス 3. IMFの機構改革問題 ①世界銀行との業務の重複化問題 70年代から90年代にかけて第一次、第二次石油危機、累積債務間題、旧計画経済国の市場経済への移行等 →EFF(拡大信用供与措置)、SAF(構造調整ファシリティー)、STF(体制移行ファシリティー)等の中・長期融資をIMFが新たに設立。=>世界銀行との重複 ②通貨制度監視機能の強化間題
国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス 4. 世界銀行(Int’I Bank for Reconstruction and Development: IBRD) 世銀の設立協定も、IMFと同様、1945年12月に発効。世銀は1946年6月にワシントンD.C.に本部を置いて業務を開始。 ・世銀の目的(協定第一条):戦争により破壊された経済の復興と途上国の開発援助であり、貸付、貸付参加または保証を行うこと。 ・世銀加盟できるのは(第2条)、IMFに加盟している国(政府)のみ。 世銀の原加盟国は28カ国。2008年現在、185カ国。日本の加盟は1952年。 世銀とマーシャルプラン 構造調整融資(Structural Adjustment Loan: SAL)
・世銀の姉妹機関 国際金融公社(IFC、1956年設立): 179 members (as of 2008) 国際開発協会 (IDA、1960年): 166 投資紛争解決国際センター(ICSID、1967年): 143 多数国間投資保証機関 (MIGA、1988年): 171 ・地域開発銀行 米州開発銀行(IDB、1959年設立)、アフリカ開発銀行 (AFDB、1964年)、アジア開発銀行(ADB、1966年)、欧州復興開発銀行 (EBRD、1991年)
国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス 5.ブレトン・ウッズ型ガヴァナンスの特徴 ①意思決定の評決制度は一国一票制ではなく、出資額に基づく加重投票制であること。 ②意思決定機関を構成するのは国家ではなく、総務や理事に任命ないし選任された個人であること。 ③意思決定は経済上の考慮にのみ基づくこと。 ④IMFを除き、市場から資金調達を行っていること。 ⑤財政面における自立性が比較的強いこと。
国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス 6. 国際資本の移動に関する現況 (1) 先進工業国間の資本移動の現状 ①移動の形態: • 海外直接投資 • 国際融資 • 海外証券投資 • 国際通貨 の流れ ②移動の規模: • 1991年:$7,940億、 • 1997年:$2兆2,920億 • 2000年:$4兆3,240億 • 2005年:$6兆超
国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス (1) 先進工業国間の資本移動の現状-2 ③先進工業国間の投資の特徴: 先進工業国間では投資の殆どが自国内投資 • 米国への資本流入の増大: • 1983年以来、米国の海外投資<他国の対米投資 • 2000年: • 海外からの流入( $9,520億)>米国からの流出( $5,530億) • 米・独・日間のグローバル資本の流れの3分の2が米国に。1992年は5分の1であった。 • 米国への純資本流入の総額は、途上国への米国の政府開発援助(ODA)の40倍。
国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス • 海外直接投資 • $1,600億ドル(1991年)→$1兆1,180億ドル(2000年)→工業国への投資比率78%→63%→(金融危機後)→84%(2000年) • 米国の輸出総額(1998年現在):$9,330億 Cf. 米国多国籍企業の関連企業の海外での売上げ=$2.4兆 • 多国籍企業の「経済力」
国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス • 国際融資 • 1989年の未払いの負債=$9,170億 • 1983年から1989年に460%増加 • 国際通貨 • 1998年の1日の国際通貨フローの推定額=$1.5兆 • Cf.同年の 1日の輸出入額=$330億
国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス (2) 南北間資本移動 • 海外直接投資 • 海外直接投資(FDI)の規模 • 1990から97年の間、政府機関や国際機関からのFDI ほぼ一定 cf. 民間FDIは3倍に増大 途上国への民間の直接投資の特徴: -東アジアと南アメリカの中所得国10カ国と二大低所得国、インドと中国に集中。 • 先進工業国から途上国への資本の還流:
国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス • 債務問題 • 石油危機以降の原油価格の高騰→非産油国途上国に大打撃 • 1980年代以降の負債問題の悪化:ローンの複利の高利子率→負債返済のためにさらに融資を受ける • 例:10%の複利→7年で負債額は2倍 • 債務再編 • コンディショナリテーの問題
国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス • 対外援助 • 海外援助の3分の2は二国間の政府間援助(ODA等)、残りは多国間援助(世銀、地域開発銀行、UNESCO等) • 海外援助の7割は無償援助、残りは低利融資 • NGOの援助。NGOを通した援助も増加傾向。1998年、政府の対外援助の28%がNGOを介した。 • 2000年のODAの総額は$375億 • 対外援助の規模 • 開発援助委員会(Development Assistance Committee: DAC)で対外援助の9割 • 1999年時点、DAC全体で$564億、DAC諸国の対GNP比で平均0.24%
国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス • 対外援助に関する賛否両論 • 対外援助拠出の理由及び賛成意見 • 支援理由:①政治的、②軍事的、③経済的、④社会政治的、⑤人道的理由 • 被海外援助国の賛成理由:経済的理由 • 反対意見 • 支援反対理由:①内政干渉、②基本的に無駄、③自国の貧困対策に使用せよ。 • 被海外援助国の反対理由:①独自の経済発展戦略の妨げ、②援助国の資源供給の後背地になるのみ、③紐付き援助、④海外援助のかなり部分は融資→将来の負債、⑤長期的な解決策ではない。
参考:日本の「政府開発援助大綱」(ODA大綱)参考:日本の「政府開発援助大綱」(ODA大綱) • ODA大綱の4原則 (1) 環境と開発を両立させる。 (2) 軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避する。 (3) 国際平和と安定を維持・強化するとともに、(中略)開発途上国の軍事支出、大量破壊兵器・ミサイルの開発・製造、武器の輸出入等の動向に十分注意を払う。 (4) 開発途上国における民主化の促進、市場指向型経済導入の努力並びに基本的人権及び自由の保障状況に十分注意を払う。
国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス ⑤国際資本の移動に対する規制の是非 • 新・経済的自由主義者の観点 • 伝統的な政治的自由主義者の観点 • 共同体主義者/活動家の観点 • 規制対象:四つの国際資本移動形態 • 海外直接投資、国際融資、海外証券投資、国際通貨 • 規制の主体: • 最小限の規制派:政府が自国の経済の健全性を保つために資本の流れを管理、 • 中程度の規制派:特定の問題領域に関して特別な機関や条約を締結して管理、 • 最大限の規制派:国際機関による国際資本の規制(既存の国際機関の権限強化案や世界中央銀行設立案)
国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス • 国際資本に対する規制の賛否両論 ①国際資本規制賛成の理由: • 1980年以降の金融危機の再発回避 • 規制なき国際資本移動は「底に向っての競争」(a “race to the bottom”)を引き起こす(産業の空洞化、労働条件の悪化や環境規制の緩和)。 • 国際金融システムの個人的な悪用や無責任な利己的投機の防止 • 「経済成長は良いこと」という前提に立った野放図なグローバル経済(大量生産、大量消費、大量廃棄)
国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス (国際資本に対する規制の賛否両論) • 国際資本規制反対の理由: • 既存の国際資本制度はうまく機能してきている。 • 自由市場は途上国の生活水準の向上を達成してきた。 • もし投資家や企業が無責任あるいは非効率なら市場が懲らしめる。 • 多国籍企業は新しい技術、新しい経営や市場開拓方式、雇用創出さらには一国の生産増大などをもたらす。 • 自由市場システムによって先進工業国の国民の生活は快適で楽なものになった。
国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス • スティグリッツのIMF批判 • ワシントン・コンセンサス • トリックル・ダウン経済学は一つの仮説あるいは信条 • 反証:東アジア各国―韓国、中国、台湾、日本―の例 • アマルティア・セン『貧困の克服』集英社新書、2002年。 • 財務省:自らの縄張りであるIMFと世銀を通じてトリックル・ダウン政策を推進。
国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス (スティグリッツのIMF批判-2) • IMFの優先事項:経済の安定、増税、銀行救済のための資金 • IMFの優先事項に入っていないもの:雇用の創出、農地改革、教育や保健のサービスを向上させるための資金(+IMFの政策ミスのために生じた失業者救済策)、金融部門の規制 • インフレに対する過度の懸念→高い金利と高い為替相場→成長を高めるどころか失業率を上げた。
国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス (スティグリッツのIMF批判-3) • ワシントン・コンセンサスの貧困政策の欠点 • 金利の高騰をともなう貿易の自由化 • 適切な規制を伴わない金融市場の自由化 • 競争政策と専売業者の強権乱用を抑える監督機能をともなわない民営化 • 緊縮財政→高い失業率→社会契約を粉砕
国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス グローバリゼーションの潜在的利益を実現するためには? 政府の役割: *政府は市場の失敗を緩和するばかりでなく、社会正義を確保するために極めて重要な役割を果す。 *政府=すべての人に質の高い教育、インフラストラクチャーの提供や金融部門の規制など。また、貧しい人のためのセイフティーネットの提供や技術振興。 経済学優先の弊害 世界各地にみられる反対運動の矛先は、国際金融機関が押しつけたワシントン・コンセンサスに対する反対
国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス • ガバナンスの変革 • 問題の所在:IMFは、途上国の何十億という人々の生命と暮らしに影響を及ぼす決定に関与しているが、途上国の人々はIMFの措置について発言権をほとんど持たない。 • 貧困や環境、広い政治・社会的問題に国際経済機関が敏感に対応するための方法=ガバナンスの抜本的変革+開放性と透明性を高めること。
国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス国際金融システムのために必要な七大改革 国際通貨・金融とグローバル・ガヴァナンス国際金融システムのために必要な七大改革 • 資本市場の自由化には危険が伴い、短期資本の流れ(ホット・マネー)には副次的な影響があるため、取引の直接的な当事者(貸し手と借り手)以外の関係者が費用の負担を受け入れること。 • 破産法の改正とスタンドスティル(返済の一時的な停止)。 • 救済措置に依存する度合いを低くすること。 • 先進国と途上国の両方における銀行規制の改善。 • リスク管理の改善。 • セーフティ・ネットの改善。 • 危機対策の改善。
主要参考文献 Baldwin, David. Economic Statecraft. Princeton: Princeton University Press, 1985). International Monetary Fund, Finance and Development, March 2007, Vol. 44, No. 1 Gilpin, Robert. The Political Economy of International Relations. Princeton: Princeton University Press, 1987(邦訳、ロバート・ギルピン『世界システムの政治経済学』東洋経済新報社、1990年). -- The Challenge of Global Capitalism: The World Economy in the 21st Century. Princeton: Princeton University Press, 2000(『グローバル資本主義―危機か繁栄か― 』東洋経済新報社、2001年). Sazama, Gerald W. “International Capital Flows,” Michael and D. Neil Snarr eds., Introducing Global Issues 2nd Ed. Boulder, CO: 2002, pp. 107-130. Stiglitz, Joseph E. Globalization and Its Discontents. New York: Norton, 2002 (邦訳、スティグリッツ『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』徳間書店、2002年). アイケンベリー、G. ジョン「制度、覇権、グローバル・ガヴァナンス」渡辺昭夫・土山實男編『グローバル・ガヴァナンス―政府なき秩序の模索』東京大学出版会、2001年、69-97頁。 古城佳子「国際経済―経済のグローバル化とガヴァナンスの要請―」前掲書、243-263。 宮村智「国際通貨・金融組織と法―IMF、世銀、地域開発銀行」横田洋三編『国際組織法』有斐閣、1999年、140-161頁。 URL IMF: http://www.imf.org WB: http://www.worldbank.org