SAM ： Script Applier Mechanism

SAM：ScriptApplier Mechanism 白井英俊　（中京大学情報理工学部）

SAMとは • Script Applier Mechanism (スクリプト適用機構) 人間が物語を理解するときに、文脈的知識をどのように役立てているかを検証するためのコンピュータ・システム (対話が主たる目的ではない） • スクリプト：典型的な状況に関する知識比較対象：語彙の知識、CDによって表現される CD : Conceptual Dependency (概念依存構造）,後述 • 開発者：Roger Schank (当時はYale大学の計算機学科と心理学科の教授)

SAMの開発の背景 • 自然言語処理における意味の重要性 • 三つの設計方針 1) 最小限の文法による構文解析意味生成に必要な最小限の文法を用いる 2) 文の意味を意味基本要素で表現同義的な文を認識。いろいろな推論を行う 3)理解における記憶の役割---文脈経験によって獲得された『典型的な状況についての知識』を使って理解が行われることを重視

CD:概念依存構造 • CDの役割 1) 文から推論を行う 2) 元の文に依存しない意味の表現を行うつまり、同じ意味を表す複数の文に対して、同一の意味表現を与える • この目的のために、 1) 意味基本要素によってあらゆる動詞の意味を記述(ATRANS, PTRANS, MTRANS,..) 2) 事物を6種類の概念範疇に分類(PP, ACT, PA, ...)

CDによる文の意味表現の例 • 「太郎が花子を見た」: 太郎は花子の方に目を向けて、花子のイメージを意識に取り込んだ [行為者: 太郎、行為: MTRANS (情報伝達) 対象物:花子のイメージ、方向：　[TO: MLOC (太郎の意識), FROM: 太郎の目], 手段：　[行為者：太郎、行為：　ATTEND (注意を向ける）対象物: 目、方向：　[TO: 花子、 FROM: unknown（不明）] ]

CDによる文の意味表現の例（続） • 「太郎が花子に本を売った」「花子が太郎から本を買った」---両方とも同一の事象だが異なる表現 [行為者: 太郎、行為: ATRANS (所有権の移動）対象物: 本方向：　[TO:花子、 FROM:太郎]] （原因・結果） [行為者：花子, 行為：　ATRANS(所有権の移動）対象物: 金、方向：　[TO:太郎、 FROM:花子] ]

MARGIE（英語の構文解析器） Memory, Analysis, Response Generation and Inference on English : 入力文をCD構造に変換し(意味の表現)、それに基いて推論を行う • 長所意味基本要素を用いることで推論が可能 • 短所　・知識をかなり低レベルの意味基本要素に分解しなければならない---意味表現が複雑になる　・推論の組み合わせ的な爆発（推論が多すぎる）---人間は適切な少数の推論だけ行っている　・その一方で、『理解』のためには別な推論が必要。

スクリプトの必要性 例：太郎はお腹がすいていた。ナンワに行ってチキンカツを注文した。とてもおいしかった。質問：ナンワとは何の店か？　　　　太郎はナンワで何をしたのか？　　　　何がおいしかったのか？この後、太郎のお腹の状態はどうか？また、太郎は何をするだろうか？

スクリプト(script) • スクリプトは、一連の行為や状況を記述---経験から得られる文脈知識 • 何が何を引き起こすか、という因果関係の知識を含む世界モデルを表現例：空腹によって食事に行くという行動が引き起こされる、レストランに入ったら食事を注文する、レストランで食事をした後はお金を払う、など • 次にどのような状況が起こるかという予測が可能

SAMの概要 • SAMの三つのモジュール（プログラム） 1）　ELI (English Language Interpreter):文を解析して意味表現にする（CD表現) 　２）　PP-MEMORY: 文中に出てきた具体物（PP)に対し、記憶中の要素と照合したり、名前をつけて記憶対象とする　３）　APPLIER: スクリプトを適用する

APPLIERの概要 • 入力：文の意味表現、スクリプトの集合 • 出力：要約ならば要約文章、質問応答ならば質問に答えるための意味表現の集合 • 手順： 1) 入力文によって適切なスクリプトを起動 2) スクリプトで「穴」になっている情報を入力で埋める、入力文にない情報をスクリプトを用いて補完する(スクリプト適用）

例：太郎は店へ行った。凧を買った。家に帰った。例：太郎は店へ行った。凧を買った。家に帰った。入力： (PTRANS (行為者(人（名前　太郎))) (対象物(人 (名前　太郎))) (TO店)) (ATRANS (対象物凧) (TO人)) (PTRANS (行為者人) (対象物人) (TO家)) SHOPPINGスクリプト:?は「穴」（変数）の印 (PTRANS (行為者?人) (対象物?人)(TO ?店)) (PTRANS (行為者?人) (対象物?物)(TO ?人)) (ATRANS (行為者?人) (対象物?物)(FROM ?店)(TO ?人) ) (ATRANS (行為者?人) (対象物?金)(FROM ?人)(TO ?店) ) (PTRANS (行為者?人) (対象物?人) (FROM ?店)(TO ?場所))

SAMの問題 • 物語理解に必要な知識 • スクリプトの管理 • スクリプトの生成などなど

いくつかの質問に答える Q: 学習はするのか？ A: SAM自体はしません。（後の質問を参照） Q: 質問は英語でないといけないか A: 日本語のシステムも作られました。 Q:　スクリプトはどのように作るか？ A: 人間が自分の経験を元に作るのがもともとのやり方。ただ、後期のシステムでは、いろいろなデータからスクリプトを自動生成するものもあったそうな。 Q:　スクリプトの数はいくつあるか？ 1977年の論文によれば50ほど。その後は不明。 Q:　どんな使い方がされているか？　　有名なのは、テロや事故の記事の要約を作る、新聞記事の要約システム。現在は不明。

McELI (英文構文解析）の実行例 入力： Jack went to the store. He got a kite. He went home. (ジャックは店に行った。凧を買った。家に戻った）出力：　(PTRANS (ACTOR (PERSON (NAME (JACK)))) (OBJECT (PERSON (NAME (JACK)))) (TO (STORE))) (ATRANS (OBJECT (KITE)) (TO (PERSON))) (PTRANS (ACTOR (PERSON)) (OBJECT (PERSON)) (TO (HOUSE)))

SAMの実行例 ((PTRANS (ACTOR (PERSON (NAME (JACK)))) (OBJECT (PERSON (NAME (JACK))))(TO (STORE))) (PTRANS (ACTOR (PERSON (NAME (JACK)))) (OBJECT (KITE)) (TO (PERSON (NAME (JACK))))) (ATRANS (ACTOR (STORE)) (OBJECT (KITE)) (FROM (STORE)) (TO (PERSON (NAME (JACK))))) (ATRANS (ACTOR (PERSON (NAME (JACK)))) (OBJECT (MONEY)) (FROM (PERSON (NAME (JACK)))) (TO (STORE))) (PTRANS (ACTOR (PERSON (NAME (JACK)))) (OBJECT (PERSON (NAME (JACK)))) (FROM (STORE)) (TO (HOUSE))) Final script: (SHOPPING (SHOPPER (PERSON (NAME (JACK)))) (STORE (STORE)) (BOUGHT (KITE)) (ELSEWHERE (HOUSE))))

SAM ： Script Applier Mechanism