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2008 年度後期 異文化コミュニケーションのための 英語学概論(第 7 回). 立教大学 異文化コミュニケーション学部 平賀 正子. はじめに. 今日の講義 語用論(発話行為 ‘speech act’ と談話分析 ‘discourse analysis’ ) 特に、謝罪のコミュニケーションについて考える。. 語用論とは. 「行為としてのことば」に焦点をあて、発話とその意図との関係を、話し手・聞き手、コンテクスト、指示対象、社会・文化的前提などを考慮しながら分析するパロールの言語学。
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2008年度後期異文化コミュニケーションのための英語学概論(第7回)2008年度後期異文化コミュニケーションのための英語学概論(第7回) 立教大学 異文化コミュニケーション学部 平賀 正子
はじめに • 今日の講義 • 語用論(発話行為 ‘speech act’と談話分析 ‘discourse analysis’) • 特に、謝罪のコミュニケーションについて考える。 英語学概論第7回
語用論とは • 「行為としてのことば」に焦点をあて、発話とその意図との関係を、話し手・聞き手、コンテクスト、指示対象、社会・文化的前提などを考慮しながら分析するパロールの言語学。 • 「構造としてのことば」に焦点をあて、言語の構造(音韻、意味、統語)そのものの仕組みを分析するラングの言語学を補完する。 英語学概論第7回
言葉 文法・語彙・発音などのルール(文法論・意味論・音韻論) 実際の TPO にあった言葉の使い方 (語用論) チェス 個々の駒の動かし方のルール ゲームを有利に進めるための駒の動かし方(定石) 言葉とチェスの比較 英語学概論第7回
コンテクスト 指示対象 行為としてのことば 話し手・聞き手 社会・文化的前提 英語学概論第7回
異文化コミュニケーションへの語用論の取組 • 発話行為やディスコース現象が文化や社会からどのような影響を受け、どのようにそれを反映して営まれているかを探る。 • ディスコース現象(コミュニケーション・スタイル、話者交代、あいづち、談話構造など)の研究。 • 発話行為(謝罪、お礼、依頼など)の研究。 英語学概論第7回
ディスコース現象の文化差 • 文化によってコミュニケーション・スタイル、話者交代、あいづち、談話構造などがどのように異なるかについては、画一的には議論できない。 • ディスコース現象には必ずコンテクストがあるので、そのコンテクストに於ける文化差を見ることになる。 • 従って、異文化比較を一般化する場合には、注意が必要である。 英語学概論第7回
コミュニケーション・スタイルの日米比較 • 例)小集団討議における日米の違い • Watanabe, S. (1993). Cultural differences in framing: American and Japanese group discussions. In Tannen, D. (Ed.), Framing in discourse (pp. 176-209). Oxford: Oxford University Press. • 「なぜ英語(日本語)を勉強するようになったか」についてのグループ・ディスカッション • 日本人は話者の順番どりが大切(特に最初と最後)。アメリカ人は順番にはとらわれない。 • 日本人は時系列に沿って詳しく説明する。アメリカ人は結果をまず言う。 • 日本人は意見の対立を回避する傾向がある。アメリカ人は回避しない。 英語学概論第7回
あいづちの日米比較 • 例)日米中の自然発話にみられる違い • Clancy, P. M., Thompson, S. A., Suzuki, R. & Tao, H. (1996). The conversational use of reactive tokens in English, Japanese, and Mandarin. Journal of Pragmatics, 26, 355-387. • 親しい友人の会話にみられるあいづちの頻度とその起こる場所を比較 • 日本人は、頻繁にあいづちを打つ。イントネーションや文法には左右されないで、どこでもあいづちを打てる。 • アメリカ人は、日本人ほどあいづちを打たない。イントネーションの切れ目や文法的な切れ目であいづちを打つ。 • 中国人は、日本人やアメリカ人に比べ、あいづちの頻度が低い。あいづちは、イントネーションと文法的な切れ目が一致するところで打つ。 英語学概論第7回
日英語のあいづちBackchannels 英語学概論第7回
日英語の受答え表現Reactive Expressions 英語学概論第7回
発話行為 • 「言う」ことが同時に別の「行為」を遂行している場合を「発話行為」という。 • 例えば、陳述、依頼、許可、お礼、謝り、約束、誉め、批判、訂正、忠告、警告、同意、提案、確認、疑問、否定など。 英語学概論第7回
発話行為の異文化比較 • 発話行為の仕方に文化や言語の違いが反映されることがある。 • 今回の授業では「謝罪」という発話行為を例にとり、言語によってどのような違いが見られるのかを調べる。 英語学概論第7回
発話行為の研究方法:データ収集 • ある発話行為がどのように産出されているか →言語行動の観察、ロールプレーなどの実験的手法、アンケート調査 • ある発話行為についてどのような理解や認識がなされるのか →インタビューによる聞き取り調査、アンケート調査 英語学概論第7回
「謝罪」のアンケート調査 • 「談話完結テスト」という手法を使用 • 謝罪のコンテクストを考える。 • 2人の談話になるように作る。 • 謝罪を左右する社会的要因を考慮する。 英語学概論第7回
謝罪のコミュニケーションを左右する社会的要因謝罪のコミュニケーションを左右する社会的要因 • 謝る人と謝られる人の親疎の関係 • 謝る人と謝られる人の社会的地位の関係 • 謝る内容(過失の程度) • 謝らなければならない程度(謝罪の義務) 英語学概論第7回
「謝罪」の談話完結テスト(プリント参照) 英語学概論第7回
謝罪とはどういう発話行為か謝罪のストラテジー謝罪とはどういう発話行為か謝罪のストラテジー • 定型表現を用いた直接的な発話行為 • 過失責任の所在についての言及 • 過失の生じた原因についての説明 • 弁償の提案 • 過失を繰り返さないことの約束 英語学概論第7回
定型表現を用いた直接的発話行為謝罪の代表的なストラテジー定型表現を用いた直接的発話行為謝罪の代表的なストラテジー • 「申し訳ありません」“I truly apologize.” • 「すみません」“I’m very sorry.” • 「ごめんなさい」“Sorry.” • 「失礼しました」“I’m sorry.” • 「謝ります」“I apologize.” • 「悪い」“I was wrong.” “It’s my fault.” 英語学概論第7回
2. 過失の責任の所在についての言及(1) • 自己責任の表明 • 「私の責任です」 • ”It was my responsibility.” • 故意の否定 • 「そんなつもりじゃなかったんだよ」 • ”I didn’t mean to.” • 相手の正当化 • 「お客様が怒られるのもごもっともでございます」 • ”I fully understand your frustration.” 英語学概論第7回
2. 過失の責任の所在についての言及(2) • 狼狽の表現 • 「こんなことになってしまって、どうしよう」 • “Oh, my God. I just don’t know what to do.” • 事実の容認 • 「君のレポートまだ読んでないんだ」 • “I haven’t read your term paper yet.” • 罪の否認 • 「僕が悪いんじゃないよ」 • “I wasn’t wrong!” 英語学概論第7回
3. 過失の生じた原因についての説明 • 客観的に過失の原因について説明する • 「バスが渋滞に巻き込まれました」 • “There was a traffic jam.” ストラテジーは組み合わせて使われる: 「バスが遅れちゃってね、遅刻しちゃった」 原因説明 事実の容認 英語学概論第7回
4. 弁償の提案 • 過失によって生じた破損を弁償する • 「破損については弁償させてください」 • “Please let me pay for the damage.” • 不利益に対して何らかの措置をこうじる • 「取り替えさせてください」 • “Please allow me to replace it.” • 「出来る限りの誠意を示させていただきます」 • “I’ll do my best to make it up to you.” 英語学概論第7回
5. 過失を繰り返さない • 過失を繰り返さないという約束をする • 「このようなミスは二度といたしません」 • “I’ll never repeat such a mistake.” • 「もう二度としません」 • “I won’t let it happen again.” • 相手への気配りや思いやりを示す • 「大丈夫でしたか?」 • “Are you all right?” 英語学概論第7回
さまざまなストラテジーを用いた例 先生から借りた本を返すのを忘れたとき学生が: 「すみません、お借りしていた本、忘れてしまいました。 定型表現 過失の事実の容認 次回必ず持ってきます。 相手の不利益に対しての措置の提案 すぐお使いになる本だったんでしょうか。」 相手への気配り →謝罪の程度、場面や相手に応じていくつかのストラテジーが組み合わされて使われる 英語学概論第7回
謝罪のコミュニケーション比較 • 英語、フランス語、ドイツ語の比較 Bulm-Kulka, S., House, J. & Kasper, G. (1989). Cross-Cultural Pragmatics. Norwood, NJ: Ablex. 8つの「謝罪」場面からなる談話完結テストによるデータ(大学生を被験者とする) • 同等の談話完結テストを日本語で行う 英語学概論第7回
<レポート> アンケート結果 女性20代 学生: 先生、レポート読んでいただけましたか。 先生: あー悪いね。読み終わんなかったんだ。 直接謝罪行為責任言及 来週になると思うんだけど。 弁償の提案 学生: あ、そうですか。では、来週で結構です。 英語学概論第7回
<本> アンケート結果女性20代 学生:先生、本当にすみません! 直接的謝罪行為 今日お借りしていた本を忘れてしまいました。 責任言及 もう一日待って頂けますか。 弁償の提案 先生: あ、そうですか。わかりました。 英語学概論第7回
<面接> アンケート結果女性20代 人事課長:お待たせして大変失礼しました。 責任言及 直接的謝罪行為 突然会議が入ったものですから。 原因説明 お疲れになったでしょう。 気配り 学生: いいえ。 英語学概論第7回
<レストラン> アンケート結果女性20代 お客: あれ、フライドチキンじゃなくて、ステーキを注文したんですが・・・ ウエイター: あっ申し訳ありません。 直接的謝罪行為 すぐお持ちしますので少々お待ち下さい。 弁償の提案 英語学概論第7回
<遅刻> アンケート結果 女性20代 遅刻の常習犯: ごめん。 直接的謝罪行為 いい加減怒ってる? 責任言及 何かおごるよ。 弁償の提案 友達:まったく! 英語学概論第7回
<車> アンケート結果 女性20代 あなた: 本当にすみません。 直接的謝罪行為 お怪我はありませんでしたか? 気配り 被害者: まいったなー。こんなになっちゃって。よく見て車をバックさせてくださいよ。 あぶないじゃないですか。 英語学概論第7回
<侮辱> アンケート結果 女性20代 同僚: 会議の席で、あそこまで言うことないじゃないか。 あなた:言い過ぎたと思うよ。 責任言及 悪気はなかったんだけど 責任言及 ごめん。 直接的謝罪行為 英語学概論第7回
<網棚> アンケート結果 男性20代 あなた: すいません。 大丈夫ですか。 直接的謝罪行為 気配り お客: だいじょうぶです。ご心配なく。 英語学概論第7回
謝罪ストラテジーの比較(%) 英語学概論第7回
謝罪のストラテジーの比較 • 全体的に直接的発話行為と責任の所在への言及が多い 日本語とヨーロッパ語の比較: • 日本語は謝罪の直接的発話行為が際だっているが、過失責任の所在への言及はほかの言語に比べてやや少ない(50%以下) • ヨーロッパ語では謝罪の直接的発話行為と責任の所在への言及とが、ほぼ同じ割合で出現している(すべて60%以上) • 相手への気配りのストラテジーはヨーロッパ語はほとんど皆無であるが、日本語では比較的頻繁(33%)に用いられている 英語学概論第7回
謝罪のストラテジーの比較 まとめ • 日本語は 直接的発話行為、 責任の所在の言及、 相手への気配りの言及 の三つのストラテジーを用いる傾向がある。 • ヨーロッパ語は 直接的発話行為、 責任の所在についての言及 の二つのストラテジーを用いる傾向がある。 英語学概論第7回
謝罪の直接発話行為 英語学概論第7回
直接謝罪行為の場面別比較 • ヨーロッパ語では場面によって直接的行為をとる度合いが大きく変わる • 日本語ではすべての場面で定型表現を用いて直接謝ることが多い 英語学概論第7回
日本語の謝罪の定型表現 英語学概論第7回
謝る人と謝られる人との関係 英語学概論第7回
日本語の謝罪の定型表現 • 謝る人と謝られる人が同等の力関係にある場面 (遅刻、侮辱)→「ごめんなさい」 • 目下の人から目上の人に謝る場面 (本、レストラン、車、網棚)→「すみません」 (レストランでは「申し訳ありません」も多い) • 目上の人が目下の人に謝る場面 (レポート、面接)→「ごめんなさい」「すみません」 「申し訳ありません」 ⇒謝る人と謝られる人との力関係の上下によって使い分ける 英語学概論第7回
日本語の謝罪の定型表現の使い分け まとめ • 日本語では人間関係によって直接謝罪表現の明確な使い分けがなされている 日本語における直接謝罪表現の使い分けは、敬語と同様に「丁寧さ」を表すストラテジーであるとも考えられる ↑ 日本の集団思考型縦社会、会話者間の地位の上下の認識や、ウチ・ソトの区別が謝罪の言語行動においても反映している 英語学概論第7回
過失責任の所在への言及 英語学概論第7回
謝る人と謝られる人との関係 英語学概論第7回
過失責任所在への言及 結果 • ヨーロッパ語は非常に類似した曲線を示している (直接謝罪行為(図1-2) 以上に場面別類似度が高い) • 全ての言語でレストランの場面では責任の所在への言及があまり行われていない • 日本語ではそのほかにも責任の所在への言及があまり行われない場面がある 英語学概論第7回
責任の所在への言及と場面 • ウエイターは責任の所在への言及をすることによって職を失う恐れがある。そのためあえて責任の所在への明確な言及は避け、ひたすら謝罪の直接行為、及び弁償の提案をする。 • 反対に、責任の所在を明確にしても自分の職業を脅かされることが無い場面では、積極的にこのストラテジーが用いられる。 →日本語では他の場面でも責任の所在への言及が少ないのはなぜか? 英語学概論第7回
日本語における責任の所在への言及と人間関係日本語における責任の所在への言及と人間関係 謝る人と謝られる人の親疎の関係 • 親しい間柄、あるいは知人の場合には、責任への言及が60%の頻度で表れている • 疎遠な間柄の場合には、責任への言及があまりなされていない • 親しい間柄の場面(レポート、本、遅刻)では、過失の事実の容認(=責任の認め方の薄いストラテジー)が多く用いられている • 知人の場合(侮辱)の責任の所在への言及は、責任の表明、故意の否定、狼狽の表現、責任の容認と多岐に渡っている 英語学概論第7回
謝る人と謝られる人との関係 英語学概論第7回