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2011-07-12 ソシオセマンティクス. 第 3 部の構成. 第 3 部:人々の意味世界とソシオセマンティクスの手法 11 ~ 12 回の第 3 部は「人々の意味世界とソシオセマンティクスの方法・手法」を主題として、ここまでで紹介してきた理論(意味づけが展開する内的舞台である個人の意味世界の在り方、社会生活を支える意味世界の安定性や社会化について)の応用として、意味世界を実証的に研究するためのソシオセマンティクスの方法、手法について議論を行う。 III-1. 意味づけ論の展開:スクリプトの分析
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第3部の構成 • 第3部:人々の意味世界とソシオセマンティクスの手法 • 11~12回の第3部は「人々の意味世界とソシオセマンティクスの方法・手法」を主題として、ここまでで紹介してきた理論(意味づけが展開する内的舞台である個人の意味世界の在り方、社会生活を支える意味世界の安定性や社会化について)の応用として、意味世界を実証的に研究するためのソシオセマンティクスの方法、手法について議論を行う。 • III-1.意味づけ論の展開:スクリプトの分析 • III-2.意味づけ論の展開:テキスト解析ツールTextImiとその社会的実践
III-1.意味づけ論の展開:スクリプトの分析 • 意味づけは不確定性とともにそれなりの安定性も備えている。だからそ、人々は互いのコミュニケーションをそこそこに、齟齬なく成立させることができるし、社会生活を営むことができる。11~12回の第3部は「人々の意味世界とソシオセマンティクスの方法・手法」を主題として、ここまでで紹介してきた理論(意味づけが展開する内的舞台である個人の意味世界の在り方、社会生活を支える意味世界の安定性や社会化について)の応用として、意味世界を実証的に研究するためのソシオセマンティクスの方法、手法について議論を行う。11回では、実際の会話やテキストに残された言語表現から書き手が意味知識として習得しているであろう「スクリプト」を析出するための言語使用分析の実例を紹介する。
意味の社会的編成モデル① • 人は「コトバを操りつつ、コトバに縛られる」 • コトバや物事自体に意味があるのではなく、あくまで我々それぞれがその場その場で意味づける • 意味づけの素材である意味知識の類似性が意味づけの類似性をもたらすが、意味知識の類似性(社会性)は社会的な相互行為(コミュニケーション)の経験から、意味と意味知識の耐えざるサイクルの中で構築される • 時にその社会性は「本来あるはずのないもの」にリアリティを与え、まるで実際に存在するかのように意識され、社会的な規範、ルール、プレッシャーとしてすら機能する
意味の社会的編成モデル② • あるいは「コトバに縛られつつも、コトバを操り新たな意味づけを生み出すことができる」 • 社会的に編成された意味知識は社会的であるがゆえの安定性を備え、安定しているがゆえに人の自由な意味づけを阻害する(「縛る」)一面を持つ • しかしそれはプリミティブな生物の意味の検出のように絶対のものではなく、常に再編の可能性の中にある • 人はコトバを操ることにより新たな意味づけを生み出すことができるし、コトバを操ることによって他者との間で意味づけをやりとりし、その意味づけをまた新たな社会的な知として作り直していくことができる
意味の社会的編成モデルの応用 • これまで整理してきた意味づけ論における概念やその関係の仕方から、どのような応用が考えられるのか • その例として • 「世間のスクリプト分析」 • 「世間」という抽象概念の慣用的言語使用(スクリプト)からの分析 • 「社会保障問題における救済のスクリプトと支援のスクリプト」 • (『意味づけ論の展開』第7章4節「創造的合意形成と内なる制約・スクリプト」から) • 社会保障の議論を、スクリプトの対立・混合という観点から整理する試論
スクリプトについてのおさらい • スクリプト • 本来は舞台や演劇の「書き割り」などを意味する言葉。ここでは、ある物事についての安定した語り方、振舞い方としてこの用語を利用する。つまり上記のスライドなどで説明された、社会的に流通して定着している物事の振舞い方、語り方についての意味知識 • 世間のスクリプト • 世間とはこれこれこのように振舞うものなのだという社会的な意味知識 • 「世間に申し訳ない」「世間に顔向けができない」「世間が許さない」「世間様に恥ずかしい」などは言語化した形での世間のスクリプト • (社会)保障のスクリプト • 社会保障とはこのようなものである、誰が何をどうすることが社会保障というものだということについての社会的な意味知識 • 社会保障に関する様々な行動の背景となり、いわば当人にとっての「あるべき」社会保障の姿を暗黙に規定しているのが社会保障のスクリプト
参考:抽象概念のスクリプト化① • 対象を直接指示しにくい抽象物 • そこには存在しない観念対象 • 「世間」「社会」「テロリズム」「グローバル化」… • 知覚的特徴からの概念(「らしさ」)の獲得が働きにくい • 言葉による間接的指示を中心とした概念形成 • 「~がAだ」という指示ではなく、「A(と)は~である」といった言葉による間接的な指示を担保とした「らしさ」の獲得 • 抽象名詞の概念はその対象の語られ方に触れる経験を中心にして形作られ、その語られ方が集団に共有される中で社会的概念としてのリアリティを獲得する
参考:抽象概念のスクリプト化② • 例えば「世間」の語り方 • 「子供があんな事件を起こしてしまって世間に顔向けができない」 • 「世間に恥ずかしくない会社に就職したい」 • 「あんな会見では世間は納得してくれないだろう」 • 東京電力は17日、6月の定時株主総会で、勝俣恒久会長か、清水正孝社長の少なくとも一方は原発事故の責任を取って辞任する方針を明らかにした。東電首脳は同日夜、朝日新聞などの取材に「6月の総会で誰も辞めないということは、世間や株主が許さない。ただ今の状況では無責任に放り出さないことも考えなければ」と述べ、辞任の時期をずらす必要性があるとの考えを示した。 • これらの語り方と、その語り方の集合としての物語(言説)を通じて「世間」に関する概念は形成される • そしてその概念形成の過程において、「世間とはこういうもの」に関する意味知識を獲得する
参考:抽象概念のスクリプト化③ • 語り方が社会的に共有されている=語り方が類型化されている • ある抽象名詞についての、日常的に定着し安定化された語り方が存在する • 世間に笑われる、世間(様)が許さない • ? 世間になだめられる、? 世間が慰める • 社会が語る語り方を踏襲することで、(本来存在しないはずの)「世間」の観念対象が(まるで存在するかのような)社会的なリアリティを持ち、それがひいては規範としての社会的効力を持ちうる。世間でどのように自分が見られるか(「世間体」)を気にして、自殺してしまうようなことまで起こる
参考:適切な語り方の習得としての社会的概念の理解①参考:適切な語り方の習得としての社会的概念の理解① 世間概念 「世間が笑う?」 「世間が慰める?」 「世間になだめられる?」 「世間が喜ぶ?」 言語使用の成否からの修正 言語的特徴からの典型化 世間へ問う 世間を見返す 世間で流行る 世間が許さない 世間が怒る 世間は冷たい 世間に認められる 日常的な言語使用の場
参考:適切な語り方の習得としての社会的概念の理解②参考:適切な語り方の習得としての社会的概念の理解② • 逆にいえば、名詞概念の理解が述語の選択にも影響を及ぼす • ○ 山にのぼる ○ 山をのぼる • ○ 空にのぼる ? 空をのぼる • 「のぼる」という動詞が示す動作図式(垂直線の上方への移動)に経験上当てはめにくい「空」 • ○ 龍が空をのぼる • 「龍」についての知識や経験(動き、形など)が「空をのぼる」という図式にある齟齬を埋める
それではどのように分析するか • 分析の観点と方法 • ある概念について、特定の集団に流通する類型化された語り方を観察・分析することから概念の在り様を明らかにする • 概念自体を分析するのではなく、人々が何気なく使用する世間の日常言語使用から概念を明かそうと試みる • a. ではどのような観点から「語り方」を分析するか • →動詞・助詞論を背景にした着目の仕方 • →どのような助詞によって取り上げられ、どのような動詞(の図式)に当てはめられやすいのか • b. aの観点による分析をデータ(収集した言語使用集合)に対してどのように行うか • →機械処理(日本語テキスト解析)の利用 • (次週で詳しく話します)
類型化された語り方の観察 助詞・動詞を観点とした語り方の分析 • その概念(名詞)がどのような動詞・助詞と共に語られるかという観点から言語使用の集合を整理、語り方の類型を再現し、考察する 声 目 冷たい 風 厳しい 言う の 狭い は 申す に 騒がす 問う 「世間」 を 揺るがす 許す 賑わす が で 流行る 認める 判断する 見かける 起きる
世間のスクリプト分析① 背景 日本文化論における重要概念としての「世間」 日本人の社会生活を規定する暗黙の共通基盤 司馬遼太郎 • 「世間とは西洋社会における神の様な存在である」 阿部謹也 • 「日本には個人も社会も無い」「あるのは世間」 • 「身内以外で、自分が仕事や趣味や出身地や出身校などを通して関わっている、互いに顔見知りの存在」
世間のスクリプト分析② 辞書を引いてみると・・・ 世間: (1)人々が互いにかかわりあって生活している場。世の中。また世の中の人々。 (2)社会での、交際や活動の範囲。 (3)〔仏〕〔梵 loka〕変化してやまない迷いの世界。生きもの(有情(うじよう)世間)とその生活の場としての国土(器世間)などがある。 →出世間 (4)自分の周りの空間。あたり。 (5)生活の手段。身代(しんだい)。財産。 (6)人とまじわること。世間づきあい。 (7)(僧に対して)俗世の人。一般の人。
世間のスクリプト分析③ 問題 確かに「世間」という概念が私たちの日常生活を暗黙に規定している日本独自?の概念であることは間違いないかもしれない。 しかし、司馬や阿部、あるいは辞書にあるような記述として私たちは「世間」を理解しているか? ↓ 人々の生活を規定している諸々の日常語の概念や常識はたいていの場合人々が明確に定義して使用しているわけではない。私たちが普段の生活で暗黙のうちに参照している、実際の人々にとっての意味としての「世間」とはいかなるものか。
世間のスクリプト分析④ • 「世間」とは何かを一生懸命内省するような恣意的な意味解釈より、実際の「人々にとっての意味」こそが重要 人々のコトバの使用を集めて分析 人々の意味世界に埋め込まれている概念・常識の隠された意味構造を見出す
「世間は(が)~」「社会は(が)~」の場合「世間は(が)~」「社会は(が)~」の場合 • 世間(や社会)はどんなことをする存在だろうか • 世間は(が)・・・ • 許す、驚く、見る、言う、騒ぐ、認める・・・ • 他動詞を取ることが多い • 特に人に対する働きかけの動詞 • 社会は(が)・・・ • (~に)なる、変わる、続く、実現する・・・ • 自動詞を取ることが多い • 特に変化を示す動詞
「世間を~」「社会を~」の場合 • 人々は世間(や社会)に対してどのような働きかけをするだろう • 世間を・・・ • 騒がせる、にぎわせる、驚かせる、揺るがす・・・ • 感情・反応を呼び起こす動詞の使役形が多い • 社会を・・・ • 変える、実現する、批判する、作る、迎える・・・ • 変化を引き起こす他動詞表現が多い • 手を加えて「社会」を変化させるような表現
「世間に~」「社会に~」の場合 • 世間(や社会)は場所や、動作の宛て先としてどんな存在なのだろう • 世間に・・・ • ある、あふれる、横行する、吹き荒れる・・・ • 話者が参画するような場所としての表現が少ない • (迷惑を)かける、(顔向けが)できる(できない)・・・ • 具体的動作の宛て先となる表現が少ない • 社会に・・・ • 出る、いる、適応する、貢献する、奉仕する、突きつける・・・ • 話者自身が参画するような場所として表現される • 具体的動作の宛て先となる表現が多い
「世間」と「社会」の言語使用の特徴 • 「は」「が」からの特徴 • 世間→人に対する判断や評価 • 社会→変化や変貌 • 「を」からの特徴 • 世間→手を触れて働きかけることができない対象 • 社会→手を触れて働きかけることができる対象 • 「に」からの特徴 • 世間→話者が参画する場所でもなければ、具体的働きかけの宛て先でもない • 社会→話者が参画する場所でもあり、具体的働きかけの宛て先にもなる
「世間」は「神」? • 司馬遼太郎曰く • 「世間とは西洋社会における神の様な存在である」 • 世間に「許す」、「認められる」 • 私達の側からの動作は受けつけず、それでいて私達には干渉してくる存在 • 一方「神」にしては情動的な反応が多い • 確かに権威を持った存在ではあるが、超越的な何かと言うより、同じ世界の見えない誰かのような雰囲気
「世間」は変えられない • 世間「は・が」「を」「に」などの分析結果から導かれる特徴としての、「変化の可能性を持たない世間」 • 世間は交渉相手にならない • 行為・コミュニケーションいずれにおいても相互作用の相手となりえない • 「世間」から「人々」へ、あるいは「人々」から「世間」への一方通行 • 個人は社会の一員ではあるが、世間の一員ではない • 構成員が不明、匿名の「世間」という存在 • 「~世間」のバリエーションが少ない→変化の可能性が低い
「社会保障問題」におけるスクリプト① 背景 高齢化社会の到来による現行の社会保障制度の限界 政策課題として重要性の高まる要介護者への対応 →社会保障制度改革の必要性 問題 社会保障制度改革における合意形成の難しさ 様々な立場と見解による対立と軋轢
「社会保障問題」におけるスクリプト② 対立の原因は何か? もちろんカネの配分に関する問題(経済学マター) 既得権益など既存の権力構造に関する問題(政治学マター) それらと同時に(あるいは背後に)存在するヴィジョンの問題 創造的な合意形成に向けて、対立の背後に固定化された社会保障に対す る意味世界(スクリプト)を分析し。そこから社会保障に関する議論を整理す るという試み
2つのスクリプトの存在 歴史的にみて社会保障においては2つのスクリプトが存在する 「救う」を基底とする「救済のスクリプト」 保障という概念のもっとも基本的なスクリプト 「困っている人たちを救うべきだ」(どこまで救うのか、どの程度救うのか) 「支える」を基底とする「相互支援のスクリプト」 「救済」の限界の自覚(救い続けてるのでは貧困はなくならない) 貧困の予防を前提とし、対象者の自立と尊厳に重きを置いたスクリプト
社会保障問題における「救済」のスクリプト①社会保障問題における「救済」のスクリプト① 強弱 上下 内外 誰が 誰を 強者 能力あるもの 高所得者 青壮年者・・・ 弱者 能力喪失者 低所得者 高齢者・・・ すくう (救う、掬う) 何から どうやって 悲惨な放置できない生活状態 最低水準以下の生活状態 公的扶助方式の再分配 応能負担租税 必要原理給付 資力調査
社会保障問題における「救済」のスクリプト②社会保障問題における「救済」のスクリプト② • 「救い上げる」「救い出す」とは言えるが、「救いあう」とは言いにくい、一方向性の強く感じられるスクリプト • 「救うもの」と「救われるもの」の上下の、対等ではない関係を前提 • 本当に救われるべき「弱者」なのかの厳しい審査 • 「どうやって救うのか」となれば、強者の負担が大きくなる(応能負担租税など) • 「どこまで救うのか」では強者が「強者」でいられる程度の救済(必要最低限の生活水準) • 生活保護(障害者福祉、高齢者福祉)などの社会保障プログラムが典型
社会保障問題における「相互支援」のスクリプト①社会保障問題における「相互支援」のスクリプト① 対等 互換的立場 誰が 誰を 市民 リスクを免れたもの 市民 リスクに見舞われたもの ささえる (支える) 何について どうやって 人間らしく自立的に生活すること 社会保険方式の相互支援 公共的連帯原理
社会保障問題における「相互支援」のスクリプト②社会保障問題における「相互支援」のスクリプト② • 「支えあう」という表現が可能なように、双方向性が強く意識される • 「下から支える」「横から支える」「後ろから支える」とは言うが「上から支える」とは言わない • 支援を行うものと受けるものの立場は対等な関係を前提とする • 自立的な市民が対等で互換可能な立場から相互に支援しあうシステムとしての社会保障 • 「どうやって支えるか」はそれぞれの負担が原則(負担と給付の対応関係) • 「支える」社会保障プログラムとしては、社会保険制度が典型的
2つのスクリプトの混同 • どちらのスクリプトのほうが良い悪いという話ではない • 「相互支援」が不可能な、どうしても「救済」が必要になる状態は当然存在する • 社会保障制度は「救う」と「支える」の2つのスクリプトによって維持されていかなければいけない • 問題は「相互支援」を目指す政策への「救済のスクリプト」の混入、あるいはその逆 • 相互支援を目指すにもかかわらず、拠出金(自立と尊厳の証)が必要ない政策 • 救済を目指すにもかかわらず、強者に利が発生してしまうような政策 • スクリプトが要請する自然な図式と、現実の制度のパフォーマンスに整合性があるかどうか • 場合によってはそれらの不整合は人々の制度への意味づけに影響を与え、ひるがえっては制度の運営に影響を与えうる(制度の弱体化、崩壊)
スクリプトのズレと政策議論 • コトバを共有し、共通基盤(意味知識やスクリプト)に構造的な類似があるからこそ、会話や社会的相互関係は齟齬なく成立する • 個人間や集団間である特定のこと(例えば「社会保障制度」)に適用されるスクリプトが異なっていたいたり、一見類似していながらも微妙なズレを持っていたりすると、意味づけの協働作業は阻害されてしまう • 社会保障政策の議論の場においても同様 • 基本理念として強力な「弱者を救え」というスローガンの存在(救済のスクリプトの強固さ) • 社会保険制度に対する一般財政の過剰な投入などに見られる、「相互支援」のスクリプトの未熟 • 論者の間で援用されるスクリプトが異なっていたり重大なズレを含んでおり、それに気づいていない状態では議論はなかなか生産的にならない