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ワークショップ 「実験家とつくる実験の哲学 ― 素粒子物理学実験 DONUT と OPERA ― 」

ワークショップ 「実験家とつくる実験の哲学 ― 素粒子物理学実験 DONUT と OPERA ― 」. 応用哲学会@京都大学  2011/9/23. われわれは何者か. 「科学哲学をつくる会」 @ 名古屋  「科学哲学者のための科学哲学」にとどまらず、  科学者の役に立つ、少なくとも関心をもってもらえる  科学哲学をつくる! 鈴木・長縄  OPERA 実験に見る 実験の 方法論 (2010 秋 @ 科哲 ) DONUT 実験を総括したいという時耕との出会い 野内、井上の参加  約1年にわたって時耕をはじめとする DONUT 関係者から聞き取り (現時点で 4 人).

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ワークショップ 「実験家とつくる実験の哲学 ― 素粒子物理学実験 DONUT と OPERA ― 」

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  1. ワークショップ「実験家とつくる実験の哲学―素粒子物理学実験DONUTとOPERA―」ワークショップ「実験家とつくる実験の哲学―素粒子物理学実験DONUTとOPERA―」 応用哲学会@京都大学 2011/9/23

  2. われわれは何者か • 「科学哲学をつくる会」@名古屋  「科学哲学者のための科学哲学」にとどまらず、  科学者の役に立つ、少なくとも関心をもってもらえる  科学哲学をつくる! • 鈴木・長縄 OPERA実験に見る実験の方法論(2010秋@科哲) • DONUT実験を総括したいという時耕との出会い • 野内、井上の参加  約1年にわたって時耕をはじめとするDONUT関係者から聞き取り (現時点で4人)

  3. 実験家とつくる実験の哲学 • 科学哲学において実験の哲学という領域がある。 80年代、新実験主義者と呼ばれる人たちによって、  それまでの理論偏重の科学哲学が見直されてきた。 Hacking(1983) 実験の理論からの独立性、介入実在論  Franklin(1986) 実験の認識論            :実験結果を信じる理由を与える戦略  彼らは基本的に文献をもとに分析している

  4. 実験家とつくる実験の哲学 • 「現場で何が起こっているのか、実験家たちは何に 価値を見出し、どういう意識で研究を行っているのか」 といったことの調査からボトムアップ的に 実験家とともにつくる「実験の哲学」があってもよい  それによってしか見えてこない実験の側面があるだろう Latour&Woolgar(1979)ら「社会構成主義者」は 実験家と問題意識を共有していない 

  5. ワークショップの構成 • 時耕(→長縄) DONUT実験とは • 鈴木1 実験の方法論@DONUT • 野内 科学的実在論論争の観点から、検出 • 長縄 OPERA実験紹介 • 鈴木2 実験の目的の変化 • 井上 インタビュー研究の方法論的反省  (各15分程度)  質疑

  6.  「DONUT実験に見る実験の方法論」 名古屋大学 鈴木 秀憲

  7. 1.実験の方法論 • 実験の方法論   「限られたリソース(金、マンパワー、時間)の中で    実験の質を高め、実験を成立させ続けるための    戦術」 OPERA実験での調査、聞き取りから生じてきた  問題意識   技術開発、トラブル対処、分業、対外的戦術など

  8. 1.実験の方法論 OPERA実験においてトラブル対処の方法論として 「専門的分業化による実験のロバストさの確保」 を取り出した。  あるサブグループの研究領域で問題が起きても  別のサブグループの技術開発で乗り切るという体制 →実験グループの構造への関心

  9. 1.実験の方法論 DONUTでのNET SCAN法開発に注目 location:ECC内のν反応点をとらえる SCAN BACK法→NET SCAN法 • ντ検出の目的を達成するには NET SCAN法確立が欠かせなかった 98 1例の後、行き詰まり 00 確立後、1年で+3例

  10. 1.実験の方法論 • NET SCAN開発者(野中)から聞き取り  研究者目線(ミクロレベル)   個人の発想・工夫→技術開発の方法論  リーダー目線(マクロレベル)   実験グループの構造→分業の方法論

  11. 1.実験の方法論(経緯) • NET SCAN開発が難航  想定外のエラーだらけの状況  「なにが問題なのか?どこをどうすればよいのか?」 (実験場での問題、現像の問題、測定時の問題)  うちきられそうに「明日研究室会議で報告せよ」  →このときブレイクスルーがあった

  12. 1.実験の方法論(経緯) • 乾板に垂直に入射する飛跡が 非常に高密度で入っている(μ粒子)CHORUSでのScanback法の経験から、 他の研究者はプレート間で飛跡同士を一対一対応させることができないと判断し、 それらを取り除いていた

  13. 1.実験の方法論(経緯) • ところが野中は、 手動操作でプレート間を一年近くつないでいたとき に、多くの場合が問題なく一対一対応つけられた という経験から  「正誤は問わずにとりあえずつなげてしまえ」 と思い切った  そしてその際にμ粒子をアラインメントに利用した

  14. 1.実験の方法論(分析) • 方法論の抽出(ミクロレベル)  ノイズをアラインメントに利用  「想定外のトラブルを逆手にとる」  (スリップ現象→気球実験での「シフター」)   物理現象としてはニュートラル    ある目線では-→別の文脈では+    予期せぬトラブル→珍しい発見

  15. 1.実験の方法論(分析) 技術開発の方法論(研究者目線)  「トラブルが起きたとき、そこでひとまず 現象として何が起こっているのかを理解する (原因をつきとめる)ことに務め、 それを利用できないか考える」

  16. 1.実験の方法論(分析) • 方法論の抽出(マクロレベル)  ある研究者が技術開発に至るには どの要素が効いているのか?  → それを促進するためにリーダーは どのような状況をつくり出す必要があるか?

  17. 1.実験の方法論(分析) (1)一人の人間に特定の仕事を任せきる 基本的にリーダーや他の研究者に相談せず   問題を現場個人の判断でクリアしていっている 問題だらけだということを素直に報告していたら   開発が打ち切られてしまう可能性がある  「仲間」が説得すべき対象として存在する (単純に「実験はチームプレイ」でない側面)

  18. 1.実験の方法論(分析) (2) 「自分がやり遂げなければ」という意識をもたせる 研究者目線「自分が任されて時間と労力をかけてやってきたのに、ここで打ち切られたら・・・」   ・責任感  ・キャリア(博論)に関わる 新技術の開発には想定外の問題が続出する  → 「必ず成功に導く」という動機が必要

  19. 1.実験の方法論(分析) (3)データ・現物に徹底して関わる機会を与える  研究者目線  「非常識かもしれないけどこれをやってみても・・・」   新技術の使い方、その実験でのデータの扱い   に関して誰よりも詳しい   →過去の実験の枠組みにとらわれない  他方、「ノイズをアラインメントに」という技術の継承 は必要

  20. 1.実験の方法論(分析)  分業の方法論(リーダー目線) 「若手の研究者にあることに特化した仕事を任せ、 それをやり遂げるという動機と  データ・現物に徹底して関わる機会を与える。 また、先人達がどのように技術開発を  成し遂げてきたかを理解させておく。」 NET SCAN法開発に限らずしばしば見られる構造 (OPERAでの原子核乾板、CSなど)  個々のスペシャリストの育成の方法論とも言える  (F研のスタイル 唯一、ベストというわけではない)

  21. 「実験の目的の変化と実験家の思惑」 名古屋大学 鈴木 秀憲

  22. 2.実験の目的の変化と実験家の思惑 • 実験の主目的はしばしば変化する カミオカンデ 陽子崩壊→ニュートリノ振動 CHORUS実験ν振動→チャームクォーク精密解析  これは全く想定外の出来事なのか?

  23. 2.実験の目的の変化と実験家の思惑 • 長縄発表  一つの実験は公的には一つの目的をもっており (proposalなど)、実験デザインはその目的に絞って  設計される。  しかし、新しい試みをする際には自然と複数の  ことを試すことになっているもの。  それゆえ実験グループの中にも(外にも)  その実験で何を発見しようとするか、  さまざまな思惑をもった人たちが出てくる。

  24. 2.実験の目的の変化と実験家の思惑 ・DONUT実験でも 公的な目的(主目的、official) ντ検出 私的な目的(意図、個人的思惑)  DONUTの責任者 ダークマター探索   アメリカのある研究者 中性の重いレプトン   そうしたものを見つける可能性がある   セットアップになっていた

  25. 2.実験の目的の変化と実験家の思惑  実験の目的の変化についてのテーゼ:  「実験の主目的が変化するのは、もともと実験が  (程度の差はあれ)多目的的であることによる。」 主目的の変化の直接のきっかけは   ・興味深いデータが出た   ・他実験がある結果を出した   ・新しい理論が提唱された  などいろいろ考えられる

  26. 2.実験の目的の変化と実験家の思惑 Aで意外な発見  他実験の結果 A B C

  27. 2.実験の目的の変化と実験家の思惑  このテーゼは(多分に)仮説的  ・DONUT実験の主目的は変化していない ντ検出が予想以上に困難で    他のことに手が回らなかった  ・OPERA実験も(今のところ)νμ→ντ振動実験   実験の主目的が変化した実験を   詳細に調査する必要がある   ただその含意を検討しておくことには意味がある

  28. 2.実験の目的の変化と実験家の思惑 • 「実験がある目的をもっている」というのは  単にそれが可能なセットアップになっている というだけでなく、  それを意図する実験家がいるor生じるということ  実験を主目的とは別の視点で見る目がなければ 重要なシグナルを見逃す可能性がある  どういう思惑をもった実験家たちが  どれぐらい(リソース)いるかによって  その実験がどういう結果を出すかが左右され得る

  29. 2.実験の目的の変化と実験家の思惑 • 実験の主目的が変化しやすいようになっている   ということは実験家にとっても重要  積極的:新発見の可能性  消極的:主目的が達成できなかったときのバックアップ  ・複数の「先入見」がプラスに働く  「メインの目的とは別の目的を追求する  人・グループをつくっておく」という  発見の方法論として述べなおすことができる

  30. 結論 • 科学哲学者は科学の展開について考える上で 個々の実験家の思惑を無視できない  それは実験家たちの実験への関わり方を通じて、 実験の進む方向を左右し得るから  (それゆえ実験をどう見るかは実験家にとっても重要)  実験が理論をガイドするのだとしたら、  それは科学全般の方向性に関わる。

  31. 展望 • 実験同士の複雑な関係性 92949698000204060810→ Super-Kamiokande T2K CHORUSOPERA DONUT ニュートリノ業界の一部

  32. 展望 • それらの実験はどのように関係しているのか? (デザイン・技術・人の連続性、補強or競合?) • ある実験が他の実験とどのような関係にあるか について実験家たちはそれぞれの解釈をもっている →  そうした実験家の解釈は実験の中身 (研究活動や実験デザイン)に  (どのように)影響するのだろうか?

  33. 課題 • さらなる他実験の調査  (F研以外、素粒子物理以外) • テーゼの検証(実証的方法の開発)    →井上発表 • 「科学の進歩」「理論と実験との関係」といった伝統的な科学哲学のテーマとの関係

  34. 文献 • Agafonova,N. et al., the OPERA Collaboration(2010)”Observation of a first ντ candidate event in the OPERA experiment in the CNGS beam”Physics Letters B 691 138-145. • 岡田謙介(2000)「タウニュートリノ反応の検出」博士論文 名古屋大学 • Franklin,A.(1986)The Neglect of Experiment.Cambridge:Cambridge University Press. ―Experiment in Physics. The Stanford encyclopedia of philosophy. http://plato.stanford.edu/entries/physics-experiment/ • Galison,P.(1987)How Experiments End. Chicago:University of Chicago Press. • Guler,M. et al., the OPERA Collaboration(2000)”An appearance experiment to search for νμ→ντ oscillation in the CNGS beam, Experiment proposal”CERN-SPSC-2000-028, CERN-SPSC-318, LNGS-P25-00 • K. Kodama et al. DONuTCollaboration(2001)“Observation of tau neutrino interactions”PhysicsLetters B, Volume 504, Issue 3, 12 April, Pages 218-224 • Hacking,I.(1983)Representing and Intervening. Cambridge:Cambridge University Press.    ハッキング 『表現と介入―ボルヘス的幻想と新ベーコン主義』 産業図書 渡辺博訳 • 時耕寿弥(2002)「DONUT実験における反応点検出効率の改良」修士論文 名古屋大学 • Latour,B. and S.Woolgar(1979)Laboratory Life:The Social Construction of Scientific Facts. Beverly Hills: Sage. • 野中直樹(2002)「原子核乾板のNETSCAN法の開発とニュートリノ反応点の研究」博士論文 名古屋大学 • Pickering,A.(1984)Constructing Quarks. Chicago:University of Chicago Press.

  35. 補足 • CHORUS、DONUT、OPERA (F研中心の国際共同実験) CHORUSDONUTOPERA 正式名称   WA95E-0872CNGS1 時期      94~0697~0806~現在進行中 目的(一般的) νμ→ντντνμ→ντ セットアップ  CERN→(1km)FermilabCERN→グランサッソ(730km) ビーム              800GeV/c 検出器      bulkbulkとECCECC 読み取り装置  TS,NTSUTSS-UTS 解析手法   SCANBACKNETSCANSCANBACK/NETSCAN併用 規模(おおよそ) ・検出器(重量)  1トン            1800キロトン ・人(関係者)   40050800 ・金(億)

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