610 likes | 801 Views
アメリカの大手商業銀行の ローン・セールとディリバティブ業務. マネー・センター・バンクを中心に. 日本証券経済研究所 証券経営研究会 2008 年 9 月 8 日(月) 掛下達郎. 1. 対象と視角 . 1990 年代以降の世界の金融業を牽引してきたアメリカ合衆国のマネー・センター・バンクの収益力の源(マーケット・メーカーとしての役割)を探る 1990 年代には日本の金融機関は不良債権処理に追われており,たとえば拓銀,長銀,日債銀まで破綻し,破綻を免れた他の大手行も国から大規模な公的資金注入を受けている。
E N D
アメリカの大手商業銀行のローン・セールとディリバティブ業務アメリカの大手商業銀行のローン・セールとディリバティブ業務 マネー・センター・バンクを中心に 日本証券経済研究所 証券経営研究会 2008年 9月8日(月) 掛下達郎
1. 対象と視角 • 1990年代以降の世界の金融業を牽引してきたアメリカ合衆国のマネー・センター・バンクの収益力の源(マーケット・メーカーとしての役割)を探る • 1990年代には日本の金融機関は不良債権処理に追われており,たとえば拓銀,長銀,日債銀まで破綻し,破綻を免れた他の大手行も国から大規模な公的資金注入を受けている。 • アメリカのマネー・センター・バンクは1980-90年代にローン・セール,金利スワップ,クレジット・ディリバティブ(以下クレデリ)を導入して業務展開を進めて収益を改善している。
図1 ローン・セール, 金利スワップ, クレジット・ディリバティブの概念図 • 報告者はローン・セール,金利スワップ,クレデリという業務展開を一連のものと捉えており,先行研究を整理しながら,それぞれの業務展開を歴史的に考察していく。
先行研究 • 誘因整合的ローン・セール・モデルにより暗黙の契約を計測してローン・セール市場の始まりを説明したGorton and Pennacchi〔1990〕 • 金利ディリバティブの利用が銀行ローンを増加させたことを計測したBrewer III, Minton and Moser〔1994a, 1994b, 1996, 2000〕 • 銀行のリスク軽減を扱ったSchuermann〔2004〕,銀行から保険会社へのリスク移転を指摘したAllen and Gale 〔2004〕 • これらの先行研究においては,それぞれの業務は個々に扱われてきており,その全体像は必ずしも明らかではない。
本報告で考察する課題 • これら3つの業務を全体として捉えた場合に,どのような特徴点が浮かび上がってくるのか,それがアメリカのマネー・センター・バンクの収益力にどのように関わってくるのか ①危機から新たな業務展開が生じていたこと ②その3つの業務展開とは貸出債権のリスクを第3者に移転する途であり,これらのリスク移転が3つの業務で段階的に開けたこと
③その結果,伝統的な収益源であった金利収入から,投資銀行業務手数料と取引収益(保有期間が1年未満のポジションから得られた利益)という非金利収入への収益源の移行が起こったこと③その結果,伝統的な収益源であった金利収入から,投資銀行業務手数料と取引収益(保有期間が1年未満のポジションから得られた利益)という非金利収入への収益源の移行が起こったこと • これら3点が相互にどのように関連していたのか,そしてそれがマネー・センター・バンクの収益力にどのように寄与していったのかを分析する。
本報告の構成 • 第2節で,マネー・センター・バンクの銀行業務の全体像と,ローン・セール,金利スワップ,クレデリの位置づけを整理する。 • 第3節ではローン・セール, • 第4節では金利スワップ, • 第5節ではクレデリの各業務において本報告の課題を考察する。そして,3つの課題と3つの業務の相互関係とそれらがアメリカのマネー・センター・バンクの収益力へどのように結びついていたかがわかるような歴史的分析をおこなう。 • 第6節 本研究のまとめ
2. 商業銀行の収益と業務展開 表1 商業銀行の収益とローン・セールと ディリバティブ市場の規模 1995-2004年(単位:10億ドル) (注) と(出所) についてはフルペーパーを参照されたい。
表2 国法銀行の非金利収入の内訳 1997―2006年表2 国法銀行の非金利収入の内訳 1997―2006年 (単位:%) (注) と(出所) についてはフルペーパーを参照されたい。
表3 マネー・センター・バンク3行の非金利収入の内訳表3 マネー・センター・バンク3行の非金利収入の内訳 1998―2006年 (単位:%) (注) と(出所) についてはフルペーパーを参照されたい。
現在の総資産100億ドル超の大規模国法銀行とマネー・センター・バンクの非金利収入の特徴の1つは,投資銀行手数料と取引収益にあるというのが本稿の課題③の詳細である。 • 金利スワップの取引収益は,取引収益の中の金利関連のものにほぼ対応している。 • クレデリの取引収益は,取引収益の中の商品その他関連に対応している。 • 総資産100億ドル未満の国法銀行では投資銀行業務手数料と取引収益が極端に少なくなっている。一方,総資産100億ドル超の大規模国法銀行とマネー・センター・バンクの投資銀行手数料と取引収益は,各行でバラツキがあるものの一定の規模に達している(表2,表3)。
マネー・センター・バンクのローン・セール,金利スワップ,クレデリの3商品は1990年代以降どのように推移しているのだろうか?マネー・センター・バンクのローン・セール,金利スワップ,クレデリの3商品は1990年代以降どのように推移しているのだろうか? • 近年,マネー・センター・バンクのローン・セールについては販売額が公表されておらず,ローン・セール目的で一時保有しているローン額(リースを含む)を参考にしている。
表4 マネー・センター・バンク3行の総資産と比較したローン・セール とディリバティブ取引 1998-2006年末 (単位:%) (注) と(出所) についてはフルペーパーを参照されたい。
表5 ニューヨーク市マネー・センター・バンク6行の ローン・セール 1985年 (注) と(出所) についてはフルペーパーを参照されたい。
現在,マネー・センター・バンクの業務において,ローン・セールが重要な位置を占めているとはいえない。 • 次節でみるローン・セールの初期の歴史ではマネー・センター・バンクは大きな役割を果たしており,それがこの数字に表れているのであろう。 • マネー・センター・バンクは金利スワップ,クレデリを積極的に利用している。 • 総資産100億ドル超の大国法銀行にディリバティブ取引が集中している。
3. ローン・セール • ローン・セールは1980年代には積極的に活用されたが,90年代以降マネー・センター・バンクが80年代のように利用した形跡はない。 (1)ローン・セールの歴史 • ローン・セールそれ自身は,商業銀行にとって目新しい業務ではなく,1世紀以上も続く古い業務である。しかし,1983年以前には伝統的なコルレス・ネットワーク内での取引,とくにオーバーライン(貸出の総量規制)のためのローン・セールにほぼ限定されていた。
パーティシペーション(協調融資) • 商業銀行はローンを売却するときに長い間パーティシペーション(協調融資)を利用してきた。 • 古い形のパーティシペーションは,主貸出銀行(lead bank)が他の銀行のために交渉するシンジケート団組成であった。 • 1955年には,加盟銀行によるターム・ローン額の31.5%がパーティシペーション形式であった(1946年とほぼ同じ)。
オーバーライン(貸出の総量規制) • 1977年のABAの調査によると,回答した銀行の51%が,オーバーラインのローンは上流のコルレス銀行向けポートフォリオの81~100%に達している。 • 同じく75%が,オーバーラインは流動性にもとづいたローン・セールよりも一般的としている。 • パーティシペーションとは,おもに中小銀行がオーバーラインのために大銀行に売却したものであった
表8 ラテン・アメリカ四大債務国の累積債務に占める 銀行融資(シンジケート・ローン)(単位:10億ドル) • 米銀はラテン・アメリカの累積債務国にたいする最大の貸し手であった。 (注) 括弧内は上段が対外総債務に占める各国銀行融資の比率, 下段が主要債権国の銀行融資に占める米国銀行融資の比率 (出所) についてはフルペーパーを参照されたい。
米銀の内訳は,四大債務国にたいする1986年末残高でみると,Citicorp,Bank of America,Manufacturers Hanover,Chase Manhattan等の上位7行で75.5%を占めている。 • マネー・センター・バンクは,ラテン・アメリカにたいする銀行貸出をそのまま放置せず,不十分ではあったが貸出債権の株式化や債権のスワップによって第3者に譲渡している。 • こうして,ローン・セール市場は金融危機の1983年頃から急速に成長している。
ローン・セールにたいする代表的な疑問 • ローン・セールの際には,一般的に債務者である顧客への通知とその承諾が必要である。優良顧客は債権者の変更を嫌い,最悪の場合その銀行との取引をやめる可能性がある。 • 「なぜ我々が自行の優良貸付を他者に売ることを望むのか? 我々は依然として優良顧客を探しており,優良顧客は世界でも多数は存在しない」 • ローン・セールによって,リレーションシップ・バンキングを放棄する売り手銀行は愚かである。売却銀行は最良の資産を売却することによって自行を弱体化させている。
(2)ローン・セールの動機 • 通常,ローン・セールされるものは,銀行の既存の貸付ポートフォリオではなく,1980年代後半になると,新しくオリジネートされたものが多くなっている。 • ローン・セール市場は,初期の段階では途上国向けのシンジケート・ローンが中心であった。これは当初から売却を前提として組成されたものではなかった。
M&A(合併・買収)ローン • その後は国内向けでBBB格以上の投資適格の商工業貸付が主となる。 • 1986年には,M&Aローンが,大銀行のローン・セールの33%超であった。 • マネー・センター・バンクのローン・セールでは,1986年に50%以上が,87年3月に40%がM&A ローンであった。 • この時期のM&Aは大規模化しており,おもにマネー・センター・バンクのような大銀行が主幹事となってシンジケート団を組成して融資をおこなった。
1989年にM&Aローンはローン・セール全体の44.5%というピークに達した。1989年にM&Aローンはローン・セール全体の44.5%というピークに達した。 • M&A ローンの主たるものはLBO(leveraged buyouts)ローンであり,M&A,とくにLBOローンには新しくオリジネートされ当初から売却を前提として組成されたものが多数含まれている。 • 1991年にM&Aローンはローン・セール全体の22.0%というボトムにまで減少した。これは1980年代後半のローン・セール市場の隆盛がM&Aローンによってささえられていたことを示唆している。
自己資本比率 • 1988-93年に,売却と購入の両方をおこなっている銀行は,売買をおこなっていない銀行より,自己資本にたいするリスク資産比率を約7%または8%下げることができた。 • 1988-93年に,売却と購入の両方をおこなっている銀行は,売却だけの銀行より,自己資本比率を約1.0~1.3%下げることができた。 以上Cebenoyan and Strahan (2004)
投資銀行業務手数料 • 一般に,LBOローンの一般債務の金利はLIBORの2~2.5%高で,取引手数料は貸付額の約2%であった。LBOローンの金利・手数料は,伝統的な企業貸付より通常かなり高かった。 • 1988年のRJR Nabiscoの場合には,当時マネー・センター・バンクであったManufacturers Hanoverを主幹事とした200余りの銀行が145億ドルの一般債務を提供して,3億2,500万ドルの代理店手数料とファシリティ・フィー,7,300万ドルの年間契約料を受け取った。さらに,取引が実現されなくても,1億5,000万ドルの解約手数料が課されていた。
ローン・セールは,伝統的な商業貸出から投資銀行の考え方へと売却銀行の文化を転換させる特効薬となった。 • しかし,ローン・セールが彼らの主要な銀行業務として定着することはなかった。 (3)小括 • 中南米諸国の累積債務危機を契機にローン・セールという新たな業務展開が生じた(課題①)。 • ローン・セールはリスクを含む貸出債権そのものを第3者に移転するものである(課題②)。
債務危機後は,売却を前提として組成されたM&Aローンがローン・セール市場をささえた。債務危機後は,売却を前提として組成されたM&Aローンがローン・セール市場をささえた。 • その結果,伝統的な収益源であった金利収入から投資銀行業務手数料という非金利収入への収益源の移行が起こった(課題③)。 • この収益力を保つ能力がマネー・センター・バンクの強さである。 • しかし,大型LBOがおこなわれなくなると,ローン・セールも下火になった。 • これにたいして,銀行貸付を既存の貸付ポートフォリオに残したままで,貸付の金利リスクや信用リスクに対処する方法が導入されていく。
4. 金利スワップ • 金利スワップは金利リスクを取引相手に移転する金融派生商品である。 • それ以前に導入された株式や債券の先物・オプション取引では,リスクのみではなく元本を含んだ取引がおこなわれた。 • しかし,金利スワップや第5節のクレデリ取引では貸出債権のリスクのみが移転される(図1)。 • このように株式や債券ではなく貸出債権から派生している点を,報告者はローン・セールからの一連の業務展開と捉えている。
さらに, 1980年代後半のバブル崩壊以降,新しく裁定取引をして収益を得ようとするもの(トレーディング目的)の金利スワップが増加している。 • ここでも本稿の3つの課題を検証するとともに,その相互関係とそれらがアメリカのマネー・センター・バンクの収益力へどのように結びついていたかを明らかにしたい。
表9 金利スワップ取引のエンド・ユーザーであるアメリカ企業の特徴表9 金利スワップ取引のエンド・ユーザーであるアメリカ企業の特徴 銀行貸付の金利をスワップによって固定金利払いにすることが,典型的な企業の金利スワップ取引といえる (1)金利スワップの歴史 (出所) についてはフルペーパーを参照されたい。
表10Chemical Banking Corp.とChase Manhattan Corp.による 金利スワップ取引の関連バランスシートによる分類 1995-96年 (単位:100万ドル 括弧内は順に構成比%と各項目比1)%) (注)1 各項目比とは,各項目(たとえば貸付)残高と比較した金利スワップ取引の 比率である。 その他の(注)と(出所) についてはフルペーパーを参照されたい。
貸付 • 1995-96年当時のマネー・センター・バンクであったChemical Banking Corp.とChase Manhattan Corp.のデータ(表10)をみると,金利スワップ取引の関連バランスシートの過半を貸付が占めている。 • コア業務である銀行貸付から金利スワップが派生している。 • アメリカの銀行の変動金利貸付は世界で最も普及しており,マネー・センター・バンクがその先導役を務めていた。自らが先導して普及させた貸付の変動金利受取りを,なぜわざわざ固定金利受取りにスワップしたのだろうか?
この問題を考えるために,マネー・センター・バンクの他の金利スワップ取引をみてみよう。この問題を考えるために,マネー・センター・バンクの他の金利スワップ取引をみてみよう。 預金 • 表10の金利スワップ取引の関連バランスシートの第2項目は預金 • 商業銀行の金利スワップ取引の代表的な相手先は,たとえばS&Lである。 • S&Lが発行する変動利付債と銀行が発行する固定金利の預金証書の金利部分をスワップする。 • 銀行は短期の商工業貸出に適した変動金利の負債をもち,S&Lは長期の固定金利モーゲイジに適した固定金利の負債をもつ。ALMである。
ALM(資産負債総合管理) • バランスシートの資産側で負債側より変動金利の金融商品が普及したために,資産側の変動金利の金融商品を減らし,負債側の変動金利を増やすように金利スワップをおこなっている。 • この場合,金利スワップ取引はALMを目的としていることになる。 長期債務,証券
マネー・センター・バンクの優位性 • 銀行からみれば,銀行の資産側はおもに変動金利受取りから固定金利受取りに金利スワップされ,負債側はおもに固定金利払いから変動金利払いにスワップされ,バラエティに富むことになる。 • バラエティに富むとは,この資産と負債両側,変動から固定金利受取りと固定から変動金利払い両方にまたがる金利スワップ取引の種類の多さのことである。
これは,大投資銀行が圧倒的に固定金利払いから変動金利払いに長期債務の金利スワップをおこなっていることと対照的である。このバラエティに富んだ金利スワップ取引を提供できれば,多種多様な顧客のニーズに応えることができる。顧客の事例は,すでにみた企業やS&L等である。これは,大投資銀行が圧倒的に固定金利払いから変動金利払いに長期債務の金利スワップをおこなっていることと対照的である。このバラエティに富んだ金利スワップ取引を提供できれば,多種多様な顧客のニーズに応えることができる。顧客の事例は,すでにみた企業やS&L等である。 • こうした顧客のニーズを満たすバラエティに富んだ金利スワップ取引に関連していれば,マネー・センター・バンクはマーケット・メーカーとしての地位を獲得しやすくなる。 • これはアメリカのマネー・センター・バンクの収益力の源の一つと考えられる。
(2)金利スワップの動機 • 金利スワップの動機の1つは,前節でみたようにALMを目的としてマネー・センター・バンクが自らのバランスシートを組み替えるもの。 • 1980年代後半にバブルが崩壊し,アメリカの主要商業銀行の収益が悪化または横這いとなっている。 • M&Aブームも去り,大型LBOローンによる手数料収入という道も閉ざされた。 • マネー・センター・バンク自身の経営判断も転換し,1990-91年にはいわゆるクレジット・クランチ(貸し渋り)が発生した。
トレーディング目的の金利スワップ取引 • この収益を改善することに,金利スワップを中心とするディリバティブ取引も関係している。 • 金利ディリバティブ取引は,ALMを目的としてバランスシートを組み替えるものから,おもに将来の金利リスクを予測し裁定取引をして収益を得ようとするもの(トレーディング目的)に変化している。 • このトレーディング目的の金利スワップ取引で発生する収益は,おもに取引収益(保有期間が1年未満のポジションから得られた利益)と投資銀行業務手数料である。
(注) と(出所) についてはフルペーパーを参照されたい。
(注) と(出所) についてはフルペーパーを参照されたい。
商業銀行の優位性 • 商業銀行は自己勘定で資産と負債両側に多様な金融商品を揃えている。 • 一般に,商業銀行は投資銀行より広範な顧客をもち信用分析をおこなう。 • さらに,商業銀行は資金提供能力を備え,業務上常に貸借をおこなう。 • その結果,投資銀行よりもディリバティブのような派生的な金融商品を作り出す。
そのため,商業銀行は金利スワップのディーラー,さらにはマーケット・メーカーとして投資銀行より有利である。そのため,商業銀行は金利スワップのディーラー,さらにはマーケット・メーカーとして投資銀行より有利である。 • 一般的に,顧客も大投資銀行よりもマネー・センター・バンクの信用を好み,大投資銀行の信用を得ようとしない顧客もいるという。 • U.S. Congress, House〔1993〕によると,アメリカの商業銀行10行だけがディリバティブのディーラーとして行動している。 • 同じく国法銀行6行のディリバティブ取引の約90%が値付け業務(market-making)の一部である。
(3)小括 • 1990-91年のクレジット・クランチという危機からトレーディング目的の金利スワップという新たな業務展開が生じている(課題①)。 • 金利スワップでは貸出債権の元本は転売されないので,優良顧客を維持しながら金利リスクのみを移転できる(課題②)。 • マネー・センター・バンクはローン・セールでは投資銀行手数料を手に入れたが,金利スワップではそれに加えて取引収益を獲得するようになった(課題③)。
5. クレジット・ディリバティブ • クレデリは信用リスクを取引相手に移転する金融派生商品である。 • マネー・センター・バンクを中心とする大銀行は,まず主たる貸出債権の信用リスクをヘッジするために,クレデリを利用する(図1)。 • この信用リスクのヘッジャーをプロテクション(信用リスクにたいする保護)の買い手という。 • ニューヨークでは,信用リスクや金利リスクなど個別取引のすべてのリスクを移転するTRS(total return swap)が,銀行によるローンの信用リスク移転商品として最初に導入されている。
(1)クレジット・ディリバティブの現状 • 1997年以前の対アジア投資ブームと97年アジア通貨危機,98年ロシア経済危機で大きな信用リスクに直面したことがこの市場を注目させることになった。 • 日本でもこの時期に三洋証券,北海道拓殖銀行,山一證券等が破綻し,クレデリ市場が導入された。 • これは,本報告の課題①「危機から新たな業務展開が生じた」ことと整合的である。
表⒒ 世界のクレジット・ディリバティブの買い手と表⒒ 世界のクレジット・ディリバティブの買い手と 売り手 2000 ―08年(市場シェア% 金額ベース) (注) と(出所) についてはフルペーパーを参照されたい。
(2)クレジット・ディリバティブの動機 • 第3節のローン・セールはすべてのリスクを移転するが,クレデリは信用リスクだけを,金利スワップは金利リスクだけを移転する。 • その意味で,クレデリと金利スワップは,ローン・セールの機能の一部を代替している(図1)。 • さらに,クレデリ取引では,ローン債務者である顧客への通知は必要ない。 • したがって,クレデリでも優良顧客が流出する可能性というローン・セールでは不都合な点も補完している。
銀行は受取人すなわちリスクをヘッジすることが多いが,マネー・センター・バンクでは保証人すなわちリスクを引き受ける金額の方が大きくなることもある。銀行は受取人すなわちリスクをヘッジすることが多いが,マネー・センター・バンクでは保証人すなわちリスクを引き受ける金額の方が大きくなることもある。 • エネルギーの卸売り会社エンロンが破綻した2001年には,総資産100億ドル超の大国法銀行でもリスクを引き受ける金額の方が大きくなっている(以上,表4,表6)。 • ヨーロッパの保険会社や地方銀行のようにプレミアム(またはスプレッド)を得ているのである。 • このような信用リスクをヘッジすると同時にリスクを引き受ける行動をどのように理解すればよいのだろうか?
トレーディング目的のクレジット・ディリバティブトレーディング目的のクレジット・ディリバティブ • 2002年9月末に,プロテクションの売りポジションの約98%を30の世界的な銀行とブローカー・ディーラーが保有しており,この取引相手の上位にアメリカのマネー・センター・バンクが入っている。 • J.P. Morgan Chaseが1位,Citigroupが8位,Bank of America が12位である。 • これは,表11の銀行によるトレーディング目的のクレデリの大きさと整合的である。